代替乳製品

ビル・ゲイツが出資する人工母乳を開発するBiomilq、細胞を培養して母乳を「体外で」作製

 

このニュースのポイント 

●米Biomilqがヒト母乳にあるカゼイン・ラクトースを含む人工母乳を開発

乳腺上皮細胞を培養して作る人工母乳

母親の細胞から作られるカスタマイズされた人工母乳

●2020年1月に350万ドルの出資を受ける

●出資者にはビル・ゲイツが設立した投資ファンドも

妊娠中に針生検で細胞を採取、母乳が完成したら購入者へ出荷する

 

 

細胞を増殖して作った肉は「培養肉」、「クリーンミート」ともいわれ、細胞農業のテクノロジーを活用する。

この細胞農業によって、これまでにはない「肉」ではないものを開発している企業がいる。

Biomilq(バイオミルク)だ。

企業名からお察しのとおり、人工母乳を作っている。

乳児を6ヵ月~1年間、母乳で育てるのが良いことは母親なら誰でも知っている。しかし、母乳はすべての母親が平等に享受できる「贈り物」ではない。母乳で子どもを育てることは、宝くじの当たりはずれに近いものがある。

自分の身体が母乳を出せるのか、全く出せないのか、母親がコントロールすることはできないからだ。

粉ミルクは牛乳を成分としており、人間の乳児向けに加工されているものの、本物の母乳には劣る。母乳が十分に出ずに悩む母親や、母乳育児ができないことで自責の念にかられる母親は少なくない。Biomilqの共同創業者Stricklandもその一人だ

Biomilqの共同創業者 Leila Strickland(左)とMichelle Egger(右) 出典:Biomilq

2020年1月、同社はヒトの母乳で大切な成分である、カゼイン(タンパク質)とラクトース(炭水化物)の作製に成功した

といっても、ヒトの母乳にはカゼイン、ラクトースのほかにも豊富な成分が含まれており、共同創業者のMichelle Eggerによると「まだ母乳とは呼んでいない」という。正確には母乳と言わないものの、この人工母乳は「母乳に極めて近い」ものだと自信を見せる

培養肉ハンバーガーの衝撃

2013年、オランダのマーク・ポスト教授が世界で初めて実験室で作った培養肉を使ったハンバーガーを披露した。

このニュースはStricklandに衝撃を与えた。細胞生物学が専門のStricklandにとって、実験室で作る肉の「次」はミルクだった。しかし、人工母乳には培養肉とは異なる壁が立ちはだかる

培養肉は細胞が成熟して「肉」になったら売ることができる。しかし、人工母乳は、細胞を生きた状態で保ち、できるだけ長く生産し続けないといけない成長した1つ1つの細胞を収穫して、そのままの状態で商品にしなければならないのだ

Stricklandは乳がん研究用のヒト乳房細胞で実験しようと考えたが、予算がなかった。細胞から産生されたものが母乳なのか検証する必要があった。

「2013年から2016年は、他人には極めて不可解に思われるだろう科学趣味にふけっていました」

とStricklandは語る。

研究に燃え尽き、一時は諦めかけたStricklandだが、共同創業者Eggerとの出会いもあり、2019年に研究を再開する。

Eggerは慈善基金財団ビル&メリンダ・ゲイツ財団に勤務し、食品科学のバックグランドをもつ。Eggerが起業・経営面をサポートすることとなった。

こうしてStricklandとEggerは商業用の実験室を持ち、概念実証(アイディアの実用化が可能であることを検証すること)を始めた。

乳腺上皮細胞を培養して検体を採取したところ、2020年2月、驚くべき結果が得られた

細胞から母乳にあるカゼインとラクトース産生されていることが判明したのだ

このブレイクスルーによって、2人はビル・ゲイツの投資ファンドから350万ドルの出資を受けることに成功する。生産プロセスのスケールアップに取り組めるようになった。

母乳とラボ産母乳の大きな違い

といっても、実験室で作られる人工母乳は、ヒトの身体で作られる母乳と比較して、大きく異なる点がある。

ヒトの母乳は、赤ちゃんの状態に合わせて母乳の成分が変わる。

例えば、乳児が感染症にかかっていると、病原体を撃退する働きをする成分が母乳に送り込まれる。脳の成長を促すDHAは、正期産の母親よりも早産の母親の母乳に多く含まれる。体内で渡しきれなかった成分を、出産後に乳児の状態に合わせて届けることができるからだ。

このように、ヒトの母乳は乳児ひとりひとりに合わせて作られたオーダーメイドミルクだが、人工母乳は乳児の状態に合わせて変化することはできない。

実験室で作られた母乳には、ホルモン、抗体は含まれていない。母乳に含まれる抗体は、母親の血管を通じて移行するが、単離された細胞ではこれができない。これが、人工母乳とヒトの母乳の大きな違いだ。

今年2月の報道によると、母乳と同じ栄養プロファイルを有するか確認するために、詳細な分子特性解析を実施する予定だという。

Biomilqはまず、アーリーアダプター向けに母乳を生産する予定でいる。妊娠中に針生検で細胞を採取し、母乳を作り、完成したら購入者に出荷するという。

アーリーアダプターとはマーケティング用語の1つで、新しいサービス・商品を早期に受け入れ、ほかのユーザーに影響を与えるとされる人々のことを指す。

 

この計画は、商品と同じくらい注目を集めることは間違いないが、消費者向けのサービスとしては非常にコストがかる

この点についてStricklandは、「ビジネスモデルを構築する前に、商品それ自体の可能性をアピールする狙いがある」と語る。商品の普及に注力することをいとわない、母親、父親、保育士から構成されるコミュニティを作りたいと考えている。

つまり、市場に出回るようなビジネスモデルにするよりも、商品がもたらすメリットを示す狙いがある。

人工母乳を開発するアジアの競合

StricklandとEggerは、体の外で母乳を作り出したのは世界初だと考えているが、実は同じタイミングで人工母乳の開発に取り組んでいる企業がいた

シンガポールのスタートアップTurtleTree(タートルツリー)だ。

TurtleTreeの創業者 出典:TurtleTree

同社は、授乳期の乳腺細胞(ヒトまたは動物)を使って母乳の分泌し、ろ過して抽出したものを人工母乳としている。

Biomilqとの違いは、Biomilqの人工母乳は最終工程でろ過が不要なことである。これについて、Eggerは「よりクリーンである」と自信を見せる。

2社の違いは、製造工程だけでなく、ターゲット、販路にもある

Biomilqは欧米をターゲットとしているが、TurtleTreeはアジア市場を狙っている。また、BiomilqはDtoCや小売での展開を考えているが、TurtleTreeは乳製品の大手企業とライセンス契約を結んで、技術の販売を考えている。

Biomilqは具体的な販売時期を明かしていないが、TurtleTreeは2022年までに市場投入を目指している。

これら2社の技術が商品化されれば、乳製品産業にとって大きな衝撃となるのは間違いない。

Biomilqは2020年に設立された米国のスタートアップ。

これまでに350万ドルの出資を受けており、最新の資金調達は2020年6月のシードラウンド。

出資者の中には、ビル・ゲイツが設立したファンドBreakthrough Energy Ventures、スイスのベンチャーキャピタルBlue Horizon Ventures、動物製品撤廃に取り組むベルリンのファンドPurple Orange Ventures、乳児用オーガニックミルクのハッピーファミリー創業者のShazi Visramがいる。

 

参考記事

‘I want to give my child the best’: the race to grow human breast milk in a lab

BIOMILQ Has Grown The Main Components of Human Breastmilk in a Lab

アイキャッチ画像の出典:theguardian.com

 

 

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