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Moolec Science、ウシミオグロビンを生成するエンドウ豆で米国農務省の承認を取得

 

ルクセンブルクに拠点を置く植物分子農業企業Moolec Scienceは今月、米国農務省(USDA)・動植物検疫課(APHIS)から、牛タンパク質を生成する遺伝子組み換えエンドウ豆について認可を取得したことを発表した

同社は過去18ヵ月で、ベニバナ「GLASO」、大豆「Piggy Sooy」についてUSDAの認可を取得した。今回の発表は、4月に豚タンパク質を作る大豆「Piggy Sooy」で承認を取得したニュースに続くものとなる。

USDAからの承認は遺伝子組み換えエンドウ豆「PEEA1」の輸入、環境放出、州間移動に許可が必要ないことを意味し、現時点で「PEEA1」を原料としてアメリカで販売できるわけではない。

「PEEA1」でUSDAの承認を取得

出典:Moolec Science

Moolecの遺伝子組み換えエンドウ豆は、鉄分含有量を増やすタンパク質であるウシミオグロビンを大量に生産するため、植物由来の鉄分を求める消費者にとって理想的な代替品となる。栄養価が高く鉄分が豊富な代替品として、食品原料市場と650億ドル規模のエンドウ豆産業の両方を変革させる可能性を秘めていると同社はみる。

企業がAPHISに規制ステータス評価(Regulatory Status Review、RSR)の申請を行うと、APHISは申請された遺伝子組み換え植物を審査し、非遺伝子組み換え植物と比較して、植物の害虫リスクが増加する可能性があるかどうかを検討する。APHISが、害虫リスクが高いと判断しなかった場合、遺伝子組み換え植物は7 CFR part 340の規制の対象外となる。

今回のケースでは、APHISが審査した結果、Moolecの遺伝子組み換えエンドウ豆は、非遺伝子組み換えエンドウ豆と比較して、植物の害虫リスクを増加させるような経路を特定できず、害虫リスクを増大させる可能性は低いとの結論いたった

つまり、同社エンドウ豆は遺伝子組換えにより変更または生産された生物の移動を規制する7 CFR part 340の対象外とされた。これによりMoolecは、遺伝子組換えエンドウ豆の輸入、アメリカ国内での州を超えた移動、環境放出に許可が不要になることが確定し、野外試験の拡大、種子のスケーリング、最終的な商用化への道が開かれたこととなる。

大手CPG・ペットフードメーカーとの提携

出典:Moolec Science

Moolecは植物分子農業により主に、γ-リノレン酸を生成するベニバナ「GLASO」、豚タンパク質を作る大豆「Piggy Sooy」、ウシミオグロビンを生成するエンドウ豆「PEEA1」を開発している。

同社は今年7月、2025年のアメリカ市場進出に向けて、グローバルな消費財・ペットフード企業とオフテイク契約を締結した

契約は3年間で、2025年にまず50トンの「GLASO」を出荷する見込みとなる。現在、アイダホ州で商業目的に栽培中で、300トン~400トンの生産見込んでいる。「GLASO」は従来の製品よりもγ-リノレン酸(GLA)を3倍多く含有しているという

先月にはアメリカのオハイオ州ミズーリ州アイオワ州で「Piggy Sooy」の野外試験を実施していることを発表した。これにより、サンプル供給するための製品開発、種子の増産、FDA認証に向けたデータ収集を進める。

出典:Moolec Science 「YEAA」とあるが過去資料から「YEEA」だと思われる 2024年9月の資料

最新の事業発表資料によると、「Piggy Sooy」は2027年(FY27)、「PEEA1」は2028年(FY28)の商業化を目指している。商業化に向けて「Piggy Sooy」のサンプル供給、特許取得、オフテイク契約締結、FDAの認可取得を予定している。

Moolecは新規酵母株を使用したプロジェクト(YEEA)も進めており、今年3月の時点ですでにFDAと市販前協議を開始していた

昨年3月の資料では「YEEA1」「YEEA2」「YEEA3」の3プロジェクトが「PEEA1」と同等の進捗状況であることがうかがえる表記があったものの、最新の発表資料からは更新情報は確認されなかった。これによると、YEEA1は鉄を補給するサプリメントとして商業化する予定となる。

出典:Moolec Science 2024年9月の資料

Piggy Sooy」、「PEEA1」などの付加価値のある植物は、すでにある代替肉市場を変えるだけでなく、農家の収益構造を変える可能性も秘めている。「Piggy Sooy」は大豆種子中のタンパク質が最大26.6%と当初の予想より4倍高い発現レベルを示しており、分子農業は「動物タンパク質を生産する最も価値ある代替技術の1つ」になるとMoolecは見ている

植物を工場とする分子農業は、商品化、認可取得まで時間を要するものの、既存インフラや農家との協力により、スケールアップしやすい。

国内でも、イネと植物工場を活用した分子農業でカゼインを開発するKinishが登場している。Kinishは分子農業と並行して植物性アイスクリームも開発しており、まず国内でライスアイスクリームの年内上市を目指している。

 

参考記事

Moolec Has Received USDA Approval for the First Genetically Modified Pea in History

 

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アイキャッチ画像の出典:Moolec Science

 

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