アグテック

インポッシブルフーズの脅威になるか?スピルリナ由来のヘムを開発したBack of the Yards Algae Sciences

 

Back of the Yards Algae Sciences(BYAS)というスタートアップ企業が作る「ヘム」が代替肉産業にブレイクスルーをもたらすかもしれない。

「ヘム」といえば、インポッシブルフーズの植物ベース肉を肉らしくさせるコアとなる重要化合物。

インポッシブルフーズは「ヘム」を使うことで、肉を焼いた時に、赤色が加熱とともに茶色に変わる視覚効果や、肉らしい風味を感じる嗅覚効果を再現している。

同社の「ヘム」は他社へは販売されていない。

「ヘム」をより多くの植物ベースの代替肉企業に使ってもらいたいと考えているのがBYASだ。

ゲームチェンジャーの可能性を秘めた新規ヘム

出典:BYAS

BYASのヘムは、スピルリナを原料としている。

スピルリナは藍藻類の1つで、くるくるとねじれた形をしていることから、「らせん」を意味するラテン語の「スピルリナ」の名前がつけられたと言われる。アミノ酸、ビタミン、ミネラル、食物繊維など栄養素を豊富に含み、スーパーフードともいわれる。

 BYASのヘムはまだβ版だが、BYASのヘムを2つの植物肉バーガーに吹きかけたところ、違いがあったという。

この味覚テストでは、ビヨンドミートとMorningstarの代替植物肉バーガーにBYASのヘムを吹きかけた。

The Spoonの報道で、BYASのヘムを吹きかけたバーガーを試食した感想について、Josh Schonwald氏は次のように語っている。

「ぱっと見ただけでは、ヘムをスプレーしたバーガーに違いはなく、匂いも変わりませんが、少し食べてみたところ、これはいいと思いました。

どこが良かったのか言語化するのが難しいのですが、ヘムの風味が、ビヨンドを食べた後に残る風味を打ち消してくれたのだと思います。旨味が増したのかも?

いずれにせよ、ヘムを吹きかけたバーガーは格段においしくなっていました」

インポッシブルフーズとBYASのヘムの違い

出典:インポッシブルフーズ

インポッシブルフーズの大豆ベースのヘムは、遺伝子組換え技術を使用している。

同社がヘムとして使うのが、大豆レグヘモグロビン、略してレグヘモグロビンと呼ばれる。大豆に見られるヘモグロビンのことだ。

カットすると赤色に見えるのがレグヘモグロビン 出典:http://queensigem.ca

レグヘモグロビンはヘムという色素部分と、グロビンというたんぱく質部分から構成され、ミオグロビン(心筋や骨格筋にある)と、ヘモグロビン(赤血球中にある)と構造が似ている。

大豆レグヘモグロビンに含まれる「ヘム」という赤色色素が、血液中にあるヘモグロビンと同様のヘム蛋白であることを世界で最初に報告したのが、日本の久保秀雄氏だった。

レグヘモグロビンは、植物にあり酸素の運搬役として重要な役割を持つ。

インポッシブルフーズは初期のころ、大豆の根から直接レグヘモグロビンを採取していた。しかし、大量生産の壁があったため、酵母を活用することにした。

酵母に大豆レグヘモグロビンを作る遺伝子を組み込む。遺伝子改変された酵母を発酵させて、酵母から大豆レグヘモグロビンを単離する。これを植物肉に加えると、インポッシブルフーズの肉そっくりな代替肉に変わる。

同社はこうして、植物肉を「本物の肉」にするために不可欠な「ヘム」の大量生産に成功した。

しかし、製造工程で遺伝子改変された酵母を使うため、GMO食品(遺伝子組み換え食品)の販売に対する規制が厳しい国では、参入が難しいという課題がある。

これに対し、BYASが開発する「ヘム」はGMOフリーを特徴とする。原料は大豆ではなく、スーパーフードとされるスピルリナを使うため、栄養面、訴求面において大豆にはないメリットも期待できる。

来月デビューするスピルリナ由来のヘム

出典:BYAS

BYASは2018年に設立されたシカゴを拠点とするスタートアップ企業。

BYASはこのほど藻類由来のヘムの大量生産に向けて、ユタを拠点とするLiqueDryと提携した。LiqueDryは藻類を粉末に変える技術に強みをもつ。

同社のスピルリナ由来ヘムは2月にもデビューする予定だ。

ヴィーガン食品企業Brytlife Foodsが、藻類由来ヘムを使ったヴィーガンバーガー「Biome Burger」を販売するとしている。ニューヨーク市の4つの店舗で販売されるという。

偶然見つかった藻類由来ヘム

BYASの藻類由来ヘムは、天然の着色剤を模索するコアビジネスの最中、偶然に見つかったものだった。

CEOのLeonard Lerer氏は、紫色に染色する開発プロセスの中で、スピルリナからレグヘモグロビンタンパク質を単離した。興味をそそられたものの、当時は着色剤に注力していたので、味を確かめたり、匂いを確認することもなかったという。

CEOのLeonard Lerer氏 出典:future food-tech

コア事業である食用着色剤が成長するに伴い、新しい問題が生じた。着色剤を生産する過程で生じる大量の藻類タンパク質だ。

無駄をゼロにすることを大切にしていたBYASは、着色剤の「廃棄物」をアップサイクルする方法を考え始める。最初は、藻類タンパク質を使って、大豆に代わる植物ベースの代替肉を作ろうと考えた。しかし、2年間の研究開発を経て、プロジェクトは中止された。全くモノにならなかったからだ。

ブレイクスルーはこの挫折の後に起こる。

出典:BYAS

肉としてではなく、フレーバーとして使えばよいとひらめいた。こうして誕生したのが、藻類由来ヘムだった。

BYASの「ヘム」は、インポッシブルのものよりも、はるかに開発しやすい。

インポッシブルのヘムには、遺伝子導入というプロセスが必要になるほか、酵母を発酵させないといけない。大豆から抽出するよりは環境負荷のないものだが、発酵プロセスが必要になるため、エネルギーコストがかかる。

BYASの「ヘム」は、遺伝子組換えも発酵プロセスも必要としない。藻類から抽出されたヘムは、水と日光があれば、タンクの中で増殖するという。詳細な製造プロセスは明らかにされていないが、開発プロセスはシンプルだという。

材料もプロセスも天然由来であるからこそ、人々にも受け入れやすい。

BYASは大豆とえんどう豆への依存を減らすことをゴールとしている。

もし、代替肉の代表的プレーヤー、ビヨンドミートが業界でいち早くBYASの藻類由来ヘムを導入したら、大きな変革がおこるのは間違いないだろう。

2021年、BYASの「ヘム」が代替肉のゲームチェンジャーになるかもしれない。

 

参考記事

I Tried a New Rival to Impossible’s Heme, and it Could Be A Game Changer

Chicago Ingredients Startup Debuts Algae Heme To Help Upgrade Plant-Based Meats

 

関連記事

  1. 米国で初めて細胞性食品を限定販売したスーパー「Berkeley …
  2. 一正蒲鉾とシンガポールの南洋理工大学、おからをヒラタケ菌糸体でア…
  3. インドEvo Foodsが代替卵を年内に販売開始、2021年4月…
  4. 二酸化炭素から代替タンパク質を開発するJooulesが約1.5億…
  5. 代替肉ビヨンドミートが初の海外工場となる中国生産施設をオープン
  6. イート・ジャストがカタールへの培養肉工場の建設でQatar Fr…
  7. 植物性代替肉・魚のHeura Foods、売上約10%減も初のE…
  8. アレフ・ファームズ、タイで培養肉の承認申請を初提出|世界の申請・…

おすすめ記事

培養脂肪の英Hoxton Farmsと三井化学、バイオものづくりの商業化に向け戦略的提携

イギリスの培養脂肪スタートアップHoxton Farmsと三井化学は今月19日、…

【世界初】米The Every Companyがアニマルフリーな卵白を発売

カリフォルニアを拠点とするThe EVERY Companyは23日、世界初のア…

ドバイが次のフードテックハブになる?UAEがドバイにフードテックバレーを設置

フードテックに国をあげて力を入れている代表例はシンガポールだが、今後はこのリスト…

ISOが植物由来食品の表示規格「ISO 8700:2025」を発表—精密発酵・植物分子農業も含む広義の植物由来をどう見るか

出典:Impact FoodISO(国際標準化機構)は先月、植物由来食品に関する表示規格「ISO…

大手プロテインブランドMyproteinが精密発酵タンパク質を使用した新製品を発売

アメリカで精密発酵で開発されたタンパク質の市場投入が加速している。精密発…

【4/10】代替カカオ・ココアバター最新動向セミナー開催のお知らせ

本セミナーは終了しました。アーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

次回Foovoセミナーのご案内

細胞性食品(細胞培養食品)レポート販売開始

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

最新記事

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

▶メールマガジン登録はこちらから

精密発酵・定期動向レポート発売のお知らせ

代替カカオレポート・好評販売中

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

会員サービスFoovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

Foovoセミナー(年3回開催)↓

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

PAGE TOP