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EUが精密発酵・藻類由来食品を開発する企業に約78億円の資金提供を発表

 

欧州連合(EU)は今月、欧州イノベーション会議(EIC)の「Work Programme 2024」を通じて精密発酵や藻類由来の持続可能で栄養価の高い食品生産を支援するため、スタートアップ企業や中小企業に向けて5,000万ユーロ(約78億円)を投じることを発表した。

Green queenによると、EUが精密発酵に特化した資金提供を実施するのはこれが初だという。

EUが精密発酵・藻類由来食品に5,000万ユーロの資金提供

出典:PFx Biotech

このプログラムは、EUの主力プログラム「Horizon Europe Framework Programme」の一環となり、先端技術の研究を支援するEICパスファインダー(EIC Pathfinde)、技術を検証するEICトランジション(EIC Transition)、市場投入と規模の拡大を支援するEICアクセラレーター(EIC Accelerator)の3部構成となる。

精密発酵・藻類由来の食品開発は、3つ目のEICアクセラレーターの対象分野となる。

EICアクセラレーターで指定された対象分野は生成AIインダストリー5.0スマートエッジ精密発酵・藻類による食品新規ウイルスに対するモノクローナル抗体治療薬再生可能エネルギーの6分野で、各分野に5,000万ユーロが投じられる。

欧州では、培養肉、精密発酵など細胞農業分野で食品成分としての販売認可を取得した企業はまだ確認されていない。

そうした中、精密発酵、藻類由来食品に「市場投入・規模の拡大を支援するため」の資金が投じられることは、新規食品規制の足かせで悩むスタートアップ企業にとって朗報となるだろう。

EICアクセラレーターの審査は大きく2段階制となる。

申請者はまずショート・プロポーザルの審査を通過する必要がある。ショート・プロポーザルは2024年1月1日以降、随時応募可能で、この審査を通過すると、フル・プロポーザルに進む。フル・プロポーザルの応募締切は2024年の場合、3月13日または10月3日までとなる。

審査では、イノベーションが市場に付加価値をもたらすか、新市場を開拓または既存市場を大きく変革させるか、商用化に成功した場合、環境、気候変動、社会、経済に広範かつポジティブな影響をもたらすかなどが評価される。

気候変動・環境問題への対処には「有効な代替手段が不可欠」

出典:Fooditive

このアクセラレーター・チャレンジは、土壌や環境条件から食料生産を切り離す精密発酵・藻類から生成された食品生産の支援に焦点を当てている。

EUは、土地に根ざした農業生産は、人間の食料の約95%を供給しているが、農業における集約的で不適切なやり方が土壌劣化をまねいていると指摘。土壌劣化は温室効果ガスの大量排出と栄養分の放出をまねく。今後の人口増加をふまえると、「効率的で柔軟かつ持続可能な食料生産を補完する方法の模索には明確な根拠がある」と述べている。

EUはこのプログラムを通じて、細菌、酵母、菌類、藻類を使用した、従来の植物または動物由来の食品に匹敵、あるいはそれを上回る量で生産できる代替食品開発の支援を想定している。

農業を補完し、タンパク質、脂肪、炭水化物、食物繊維、ビタミン、ミネラル、他の栄養素を豊富に含む食品を精密発酵・藻類により生産することは、人口の健康維持・栄養提供に貢献できる可能性があるとEUはみている。

同プログラムはまた、生物多様性の損失や汚染など、気候変動や環境に関連する課題に対処するには有効な代替手段が不可欠だと言及。

環境と生物多様性を同時に保護しながら、新たな食料源を確保するために、「既存の市場に破壊的な影響を与える可能性のある急進的な技術革新の支援を視野にいれている」と明記している。さらに、「既存の畜産システムからの転換は、飼料の輸入依存を減らし、世界の生物多様性の損失を減らすという有益な効果をもたらす」と述べている。

こうした一連の言及は、精密発酵・藻類による食料生産が、環境負荷・輸入依存を軽減し、今後の食料需要を満たす持続可能な生産手段であるとともに、既存の食品より栄養・健康上のメリットがある可能性があるとEUがみなしている表れといえる。

「市場をリードする」可能性のある精密発酵・藻類由来食品

出典:Chromologics

Work Programme 2024」は、革新的な研究者、スタートアップ企業、中小企業、創業者、その他イノベーションに関心のある組織や個人を対象としている。

画期的な技術やゲームチェンジャーとなるイノベーションのなかでも、リスクが高く、影響力があり、グローバルにスケールアップし、市場をリードする可能性の高いものに焦点を当てている。

「市場をリードする」可能性の高い分野の1つに精密発酵・藻類由来の食品が選ばれたことは、代替タンパク質業界にとって前進だ。

しかし、今回のEUプログラムの対象には細胞農業の1つである培養肉は含まれていない。

欧州における培養肉を巡る各国の動きにはばらつきがあり、イタリアフランスでは規制する動きが強化されている。

一方、英国食品基準庁(FSA)は先月、新規食品の承認申請について、企業向けのガイダンスページを公開した。申請プロセスから認可を取得した企業を確認できるデータベースなど、これから申請する企業向けの情報が掲載されており、イギリスにおける培養肉申請プロセスの促進を想定した動きだと思われる。

こうした動きについて、GFI EuropeでSenior Policy Managerを務めるAcacia Smith氏はGreen Queenの取材に対し、EUは企業や研究者に混乱したメッセージを送っていると指摘。

そのうえで、「EUは今、(欧州)大陸が世界の国々に後れを取らないように、研究開発に向けた戦略的投資を行い、精密発酵の商用化を支援するためにHorizon Europeなどの手段を活用して、この分野を支援するための一貫した戦略を策定する必要があります」と述べている

 

プログラム全文

European Innovation Council (EIC) Work Programme 2024

参考記事

EU to Invest €50M in Startups to Scale Up Precision Fermentation in 2024, Industry Think Tank Hails Commitment to Bloc’s ‘Food Security’

The EU Commits €50 Million to Startups & Small Businesses in Precision Fermentation and Algae

UK Food Standards Agency Unveils New Guidance on Authorisation Process for Cell-Cultivated Products in Great Britain

 

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アイキャッチ画像の出典:Onego Bio

 

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