代替プロテイン

日立造船とNUProtein、成長因子生産に必要な原料の自動製造装置を開発

 

日立造船はスタートアップ企業NUProteinと共同で、培養肉製造に必要な成長因子を安価に生産するためのコムギ胚芽抽出液の自動製造装置を開発したことを発表した。

プレスリリースによるとこの装置は、コムギ胚芽から培養液2,000Lに加える成長因子を1日で製造できる。1ヶ月の稼働で約3トンの培養魚肉を製造するために必要な成長因子を製造できるという。

日経新聞によると、日立造船は2025年度に成長因子の発売を目指している。

日立造船とNUProtein、成長因子生産に必要な原料生産を自動化

出典:日立造船/NUProtein

成長因子は細胞増殖因子とも呼ばれ、培養肉の原料となる細胞を培養するために不可欠な成分となる。培養肉生産コストの大部分を占めているため、成長因子を低コストで生産することは、培養肉を社会普及させる上で重要な課題となる。

NUProteinは無細胞タンパク質合成により、コムギ胚芽から抽出した成分で成長因子を作る技術を確立した

タンパク質合成についておさらいすると、タンパク質合成には遺伝情報を持つメッセンジャーRNAmRNA)、材料となるアミノ酸、材料を運搬するトランスファーRNAtRNA)、工場となるリボソームが必要となる(下記画像)。

タンパク質合成の流れを図解したもの(Foovo作成)

無細胞タンパク質合成をかみ砕くと、遺伝情報を持つが肝心の材料は持っていないmRNAに「材料」に相当するアミノ酸、「工場」となるリボソーム、「運搬屋」のtRNAなどタンパク質合成に必要な成分を加えて、試験管の中でタンパク質を作る方法だ

コムギ胚芽にはタンパク質合成を行うために必要なリボソームやtRNAが含まれている

無細胞タンパク質合成では生細胞を使わずに成長因子を作れるため、内在性ウイルスの危険がないというメリットがある。微生物を使った組換えタンパク質の生産よりも自由度が高いのも特徴とされる

しかし、コムギ胚芽から必要成分を抽出する工程は熟練した作業者による手作業が必要で、機械化が難しいとされていた。これを解決し、コムギ胚芽抽出液の製造工程を自動化したのが、今回発表された自動製造装置だ。

分子農業による成長因子生産も

イメージ画像

NUProteinは今年8月に開催された細胞農業会議で、無細胞タンパク質合成と並行して、イネを活用した分子農業により成長因子を開発していることを発表した

遺伝子組換えイネを使用することで、インスリンやFGF2などの成長因子の生産コストを大幅に削減できる可能性があるという。

これまでの各社との取り組みを通じて、コムギ胚芽由来の成長因子は培養魚肉の培養に適していることがわかっているという。一方、培養肉ではより高濃度の機能性タンパク質が求められており、今後は培養肉向けに遺伝子組換えイネを活用した技術を確立したい考えだ

NUProteinを含め、分子農業に取り組むスタートアップ企業は20社確認されている

培養肉は現在、シンガポール、アメリカの一部レストランで提供されている。供給はまだ非常に限定的で、予約を取るのは難しく、培養肉の認知を拡大し、消費者受容を向上させるためのマーケティング的施策といえる。

成長因子を安価に製造するNUProteinの技術と、それを自動化する日立造船の装置は、培養肉の生産コストを削減し、より広範囲の普及を促進するものになると期待される。

 

参考記事

遺伝子組み換え原料を使わずに培養肉を製造するための 「コムギ胚芽抽出液の自動製造装置」を世界で初めて開発

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:日立造船/NUProtein

 

関連記事

  1. オランダのFarmless、約7.5億円を調達し農地不要のタンパ…
  2. New Cultureが世界で初めて精密発酵カゼインでGRAS自…
  3. 【2023年度版】精密発酵レポート販売開始のお知らせ
  4. スーパーミート、来年アメリカに培養肉工場建設を計画
  5. 培養フォアグラを開発する仏Gourmey、EUで初めて培養肉の承…
  6. 米Omeatがロサンゼルスで培養肉のパイロット工場を開設
  7. シンガポールのSophie’s Bionutrien…
  8. 韓国の培養肉企業SeaWith、2030年までに培養ステーキ肉を…

おすすめ記事

韓国の代替肉企業Zikooinが約26億円を調達、植物肉工場を来年稼働

韓国の代替肉スタートアップZikooinは先月、2300万ドル(約26億円)を調…

ダノンが細胞培養母乳を開発するイスラエル企業Wilkに出資

大手乳業メーカーのダノンは今月、細胞培養により代替母乳を開発するイスラエル企業W…

インポッシブルフーズが植物性ソーセージを小売で販売開始

アメリカの代替肉企業インポッシブルフーズが、新たにインポッシブル・ソーセージを小…

牛を使わずにモッツアレラチーズを開発する米New Cultureが約28億円を調達

アニマルフリーなモッツアレラチーズを開発する米New CultureはシリーズA…

代替脂肪としてのオレオゲルの食品応用における課題と認可の事例|Foovo独自調査

トランス脂肪酸を含まず、飽和脂肪酸が少ない固体脂肪の代替品として近年、オレオゲル…

米ビヨンドミート、植物ステーキ肉の年内発売を計画

植物肉を展開する米ビヨンドミートが今年後半に植物由来ステーキ肉の発売を予定してい…

精密発酵レポート・予約注文開始のお知らせ

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

Foovo Deepのご案内

精密発酵レポート・予約注文開始のお知らせ

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

Foovoの記事作成方針に関しまして

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

最新記事

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,760円(11/08 14:02時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(11/07 23:35時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(11/08 03:21時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(11/07 19:56時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(11/08 12:14時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(11/07 22:53時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP