このニュースのポイント
●香港の培養肉スタートアップAvant Meatsが培養魚の切り身を発表
●設立当初は魚肚(魚の浮き袋のこと)やナマコの開発に注力
●同社のターゲットは中国人
香港の培養肉スタートアップAvant Meatsが培養魚の切り身を発表した。
18日、Avant Meatsはシンガポールで開催されたAsia-Pacific Agri-Food InnovationSummitにおいて香港で初となる培養魚の切り身を発表した。この切り身は魚の細胞を増殖させた培養肉で、下記の動画でシェフが切り身を調理する様子を確認できる。
Avant Meatsは2018年に設立された香港のスタートアップ。
同社はこれまで、中国四大海味とされる魚肚(ぎょと:魚の浮き袋のこと)やナマコの開発に取り組んできた。これらは中国で大変な人気を誇る一方で、絶滅の危機に瀕している。
Avant Meatsはターゲットを地元・中国にしている点で、メンフィス・ミーツやモサミートと戦略が異なる。理念は、地元の需要を満たすこと。実際に、創業者Carrie Chanは、アジア、特に中国人消費者の好み、食文化にあわせた製品の開発を目標としていることを明かしている。
Chanが培養肉に目を向けたとき、すでに米国には多数の培養肉スタートアップが存在した。その多くは牛肉の代替肉をターゲットとしており、2019年から培養肉に参入する同社にとって、他社と同じ方向を目指すことに何ら優位性はなかった。
Chanは、中国は水産物の消費量が最も多い国であることに着目。海洋生物は急激に減少しており、悪化の一途をたどる海洋生態系に歯止めをかけたいと考えたChanは、培養肉産業には「魚」をターゲットとする企業がまだ少ないことに商機を見出す。こうしてAvant Meatsを立ち上げた。
Avant Meatsが最初のターゲットを魚肚にしたのは、地元で高い需要があるほかに、もう1つ理由があった。牛や豚の培養肉よりも作りやすいことだ。
ステーキ肉などブロック肉を開発するとなると、脂肪細胞、筋肉細胞、結合組織が必要となる。これに対し、魚肚は1種類の細胞から構成される。細胞から魚肚を作るまでにかかるのは6週間で、量産化もしやすいという。
Agri-Foodイノベーションサミットで今回発表されたのは、同社が新たに開発した魚の切り身。代替魚のプレーヤーとしての存在感を一段と高めたことになる。
投資動向もAvant Meatsの将来性に対する期待を表している。同社はこれまでに4回のラウンドで資金調達を実施している。調達額は非公開だが、出資者はカナダのベンチャーキャピタルLoyal VC、香港のベンチャーキャピタルBrincだ。
過剰漁獲により2048年には魚が獲れなくなると言われており、脅かされる海洋生態系を救うために、Avant Meatsの他にも培養魚に取り組むスタートアップがいる。
BlueNalu、Finless Foods、Wildtypeは過去1年半にいずれも、細胞から培養した代替魚の試作品を発表している。
この3社のほかにも、カナダのCell Ag Tech、ドイツのBluu Biosciencesがいるが、まだ試作段階にはいたっていない。
植物ベースの代替魚にいたっては、欧州・米国を中心にさらにたくさんのプレーヤーがいる。牛・豚の代替肉と比べ、まだ遅れがちな代替魚市場だが、今後ますます活発になっていくだろう。
参考記事
Hong Kong’s Avant Meats Debuts Asia’s First Cultivated Fish Fillet
细胞肉,一位环保主义者的“异端”发力|Avant meats
Avant Meats Develops Cultured Seafood (Fish Maw, Sea Cucumber) for a Chinese Audience
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アイキャッチ画像の出典:Avant Meats