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培養肉はどんな産業を生み出すのか?|SKSJ2020参加レポート

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培養肉が社会・環境にもたらすインパクトは大きい。

動物を殺さずに肉を作れるようなり、肉の生産に現在のような広大な土地・水・エネルギー・大量の飼料を必要としない。

細胞から培養肉になるまでは数週間と、畜産と比べて生産時間が劇的に短縮されるのもメリットの1つだ。

さらに、細胞農業によってつくられた肉は細菌で汚染されておらず、動物肉よりクリーンとされる。

現在の畜産と比べると生産効率は格段に良く、環境に与える負の影響も小さい。何より、動物を殺さずに肉を食べられるようになるため、世界中でスタートアップが次々と登場し、課題のクリアに取り組んでいる。

世界で初めて発表された培養肉ハンバーガー 出典:Mosa Meat

しかし、実用化にはコスト、大量生産、消費者受容、法整備といった課題がある。

特に培養肉の普及は、既存産業の空洞化を意味するため、今ある畜産関連産業を巻き込んでどう枠組みを作っていくかが大切となる。

こうした培養肉をテーマに、スマートキッチンサミットジャパン(SKSJ)2020では「培養肉はどんな産業を生み出すのか」と題するセミナーが開催された。

今回はSKSJで語られた各識者の見解をレポートする。

培養肉がもたらす社会的インパクト

市場には植物性タンパク質をベースにした植物肉がある。

世界的な代替肉プレーヤー・インポッシブルフーズのパット・ブラウン氏のように培養肉は必要ないと考える見方もあるが、現在、世界で約80社のスタートアップが細胞農業による代替タンパク質開発に取り組んでいる。

植物肉がすでにあるのに、なぜ培養肉なのか?という問いに対し、「1つだけだと競争にならないし、パーソナライズのニーズから、いろいろな選択肢があった方がいい。複数の肉の選択肢があることで、産業の幅が広がる」と多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授の福田峰之氏は指摘する。

多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授の福田峰之氏 SKSJにて

多摩大学ルール形成戦略研究所客員研究員の齊藤三希紀子氏は培養肉が実用化された30年後の未来予想として、「バイオリアクターが自宅にあって、家庭で肉を作る時代になると思う。ヨーグルトメーカーのように家庭で使うものになるだろうし、肉が『家庭の味』になっていくと思う」と興味深いコメントをした。

今では工場、研究所にしかないバイオリアクターが、キッチンの電子レンジ横に並ぶ未来では、個人が編み出した「レシピ」が人気になるかもしれない。

齊藤氏同様、個人が培養肉に取り組む可能性も感じているのがインテグリカルチャー社代表取締役の羽生雄毅氏だ。

同氏は「培養肉は、技術的には人間の細胞を使って再生医療をするか、動物の細胞を使って細胞農業するかの違いである」とし、培養肉の生産技術の提供先として、個人もありえると語る。

インテグリカルチャーは現在、細胞農業の標準化を実現するインフラ作りに取り組んでいる。それがCulNetコンソーシアムだ。

出典:インテグリカルチャー SKSJにて

培養肉を量産するには石油コンビナートなみのスケールが必要となるが、1社でやるには限界があるため、さまざまなテクノロジー企業を集めたコンソーシアムを設立した。

このプロジェクトでは、インテグリカルチャーのバイオリアクターを他社が研究開発に使用できる。

現在は培養肉の標準化を目指して10のプロジェクトが進行中だが、この技術が世の中に広まれば「技術の提供先は個人もあり得る」と羽生氏は語る。

同氏によると、レストランのシェフがオリジナル肉を開発したり、個人が考えたレシピを公開したりすることも考えられる。

培養肉が普及した後の予想図(出典:羽生氏)

「培養肉によって新たな地域ブランドが生まれるかもしれない。つくり方はオープンにして、産業化の部分を知財、競争領域にすればいいと思う」(羽生氏)。

そうなった世界では、出荷されるのは「牛」ではなく「牛肉」になる。

牧場の牛舎から牛がいなくなり、バイオリアクターが並ぶ醸造所になる未来を予想できる。人気競走馬の「馬刺し」を作ることだってできる。

細胞農業技術は食品だけでなくレザー、コスメ、医薬品にも応用できるため、「家庭で自分の細胞を使ったコスメもあり得る」という。

諸外国の法整備は?

シンガポールで先月、アメリカ企業イート・ジャストの培養チキンが世界に先駆けて販売承認を取得した。

このニュースについて、「新たな規制を整備したわけではなく、既存の法整備のなかで食品として出していいかを安全性をチェックしたもの」と斎藤氏は語り、シンガポールが既存の食品規制のなかで培養肉を市場に出したことを受け、日本も既存の法律で付け加えるべきところは付け加えて市場に出す必要性を指摘した。

多摩大学ルール形成戦略研究所客員研究員の齊藤三希紀子氏 SKSJにて

齊藤氏によると、シンガポールの事例に対し、アメリカではどの省庁がどこまで管轄するかを決め、協議しているという。

現在、世界で販売許認可がでたのはシンガポールだけだが、日本のインテグリカルチャーの培養肉もシンガポールのように既存の法規制の中で市場に出せる可能性があるようだ。

羽生氏によると、同社は許される原料のみを使って、HACCAPの方法論に則って製品を作っており、「既存の法律に適合している」という。

シンガポールの動きを受けて、必要となる安全性データのほかに、提出した方が良いと思われる安全性データもあわせて提出していくとしている。

イート・ジャストの培養チキン 出典:Eat Just

ルール作成では、ある特定の業種の人だけを入れると後で反対される可能性があるため、「360度、全方位体系の中で議論する。反対しそうな人も含めて議論していく必要がある」と福田氏は強調する。

現に、ルール形成戦略研究所が創設した「細胞農業研究会」にはイスラエルのアレフ・ファームズや、Meat Techなど海外企業のほか、日本たばこ産業鳥山牧場東京女子医科大学など多方面の団体が参画している。

福田氏は培養肉の法整備について「どこかの国で決まったという段階にはなっていない」とし、ルール形成戦略研究所では春までを目標にルールの提言書作成を進めている。

海外と相談し、法整備が展開するきっかけを作るために、培養肉の名称、表示、含有率などのほか、細胞の知財管理、既存法の見直しか新法の制定なのかまで含め、日本流のルール提言書を作成している。

培養肉実用化に向けた課題

培養肉を開発する企業は世界的にも増えており、冒頭で書いたとおり、細胞農業に取り組む企業は80社を超える。

シンガポールのレストランで培養肉が提供されたものの、実用化に向けた課題には規制面だけでなく、大衆が受け入れられるかという受容度や、既存産業とどう協業するか、という問題がある。

培養肉の普及が脅威となるのは、畜産業だけではない。生産する穀物の大部分を畜産業に納品する穀物農家にも脅威となるほか、食肉処理場も閉鎖に追い込まれる。

これについて、福田氏は「誰かが泣いて、誰かが得するものだと崩れてしまう。三者三得の形がいい。日本はそれが得意な国だから、畜産の方々にも、ベンチャーにも、国民にも理解してもらえる枠組み作りが大切」と強調する。

羽生氏は「消費者受容」ではなく、「社会受容」が必要だと指摘。ビジネスの現場にいる層だけでなく、ビジネスの枠の外にいる人たちも巻き込む必要を強調した。

インテグリカルチャー社代表取締役の羽生雄毅氏 SKSJにて

そのためにも、もてはやされた技術をいざ体験した人々が落胆することのないように、値段、便利さのほかに「おいしさ」の課題もクリアする必要があるという。

齊藤氏は日本の食糧自給率の低さの観点から細胞農業の可能性を重視する。

細胞農業によって資源消費国から「資源のある日本」への転換が大切だと考える同氏は、品質の担保以外に、「細胞の知財を守る」必要性を指摘した。

齊藤氏は輸入断絶による国内生産量低下に警笛を鳴らす 出典:齊藤氏

日本で培養肉を手掛ける理由、産業化できるのか、という問いについて福田氏は、日本で培養肉を産業として盛り上げていくために「装置産業みたいになると(世界に)勝つのは難しい。実際に製造するフェーズでないところで、どうやって産業をおこせるかが大切」と指摘する。

羽生氏によると、日本には技術的な強みがある。シンガポールではバイオリアクターの調達が難しいのに対し、日本だとバイオリアクターを使える場所が散在しており、「製造業のベースが大きい」という。

ファシリテーターを務める株式会社シグマクシスの 田中 宏隆氏 SKSJにて

培養肉は動物を殺して得られる肉よりも、細菌汚染がなくクリーンな肉とされる。しかし、現在の「培養肉」「代替肉」というネーミングは、広く受け入れられる名前とはいいがたい。

培養肉が普及するには「受け入れてもらえるような体制づくりが大切。培養肉が出たはいいけど、誰も食べなかったら仕方がない」と福田氏が語るように、拒否反応を生じさせないような、新しいネーミングの必要性もセミナーでは再三、指摘された。

 

アイキャッチ画像の出典:SuperMeat

 

 

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