代替プロテイン

乳業大手フォンテラ、精密発酵・バイオマス発酵企業2社と提携(Nourish Ingredients・SuperBrewed Food)|排出量削減に向けた新たな一歩

 

ニュージーランドの大手乳業会社フォンテラが環境負荷の軽減に向けた取り組みを強化している。

同社は最近、精密発酵で動物油脂を開発するオーストラリア企業Nourish Ingredients、バイオマス発酵で代替タンパク質を開発する米Superbrewed Foodと提携した。

フォンテラは昨年11月、2030年までに2018年比でスコープ3排出量を30%削減する目標発表した。 スコープ3とは、企業の直接的な活動以外で発生するサプライチェーン全体からの排出量を指す。同社排出量の93%はスコープ3に由来するため、これを削減することは環境負荷の低減に向けた重要なステップとなる。

精密発酵・バイオマス発酵企業との連携により、理論的には工場があればどこでもタンパク質や油脂の生産が可能になる。フォンテラが精密発酵分野に参入してから2年。気候変動対策の強化や、革新的な食品技術を通じた市場機会の創出を目指して、乳業大手がパートナーシップを拡大している。

乳業大手フォンテラ、微生物発酵企業2社と提携

出典:Nourish Ingredients

Nourish Ingredientsは精密発酵で肉らしい風味をもたらす「Tastilux」、乳製品らしい口当たりをもたらす「Creamilux」を開発している。これらの製品はB2B向けで、2025年までの市場投入を目指している

フォンテラは今年1月、「Creamilux」を初めて試飲した。その後、チーズ、クリーム、バターなどの乳製品カテゴリで製品への適用を目指してNourish Ingredientsとの提携を決めた。両社は従来の乳製品だけでなく、ベーカリーなど、これまで乳脂肪に依存していた非乳製品カテゴリでも、付加価値を提供する機会を探っている。

出典:SuperBrewed Foodの画像をもとにFoovo作成

一方、Superbrewed Foodは、腸内細菌Clostridium tyrobutyricum strain ASM#19を用いたバイオマス発酵で代替タンパク質「Postbiotic Cultured Protein」を開発し、今年4月にアメリカ食品医薬品局(FDA)からGRAS認証を取得した。同社は今年4月、商用化に向けてDöhler提携した

フォンテラは、この「Postbiotic Cultured Protein」は「優れた機能性と栄養価」を有し、食品用途の乳製品に使用する補完的原料になると判断した

この発酵タンパク質は、植物を摂取することで大きく成長するゴリラなどの草食動物に着想を得たもので、成分の85%以上がタンパク質であり、スポーツ飲料、一般飲料、焼き菓子、代替肉、代替乳製品など幅広い食品に使用できる

両社は今後、乳製品の製造工程で生じる副産物であるパーミエイトなどを原料とした発酵ソリューションの開発にも取り組む予定だ。パーミエイトは、ホエイからタンパク質や固形物を除去した後に残る乳糖を多く含む成分であり、Superbrewed Foodの技術を用いて、これを高品質かつ持続可能なタンパク質に変換することを目指している。

同様のパートナーシップが続く可能性も

出典:Nourish Ingredients

精密発酵、バイオマス発酵といった新技術の導入は、フォンテラなどの乳業メーカーにとって、排出量削減にとどまらず、新たな市場機会の創出にもつながる。消費者の環境意識が高まる中、環境負荷の少ない製品の提供はブランド価値の向上にも貢献する。

フォンテラなど大手メーカーの参入は、スタートアップにとっても追い風となり得る。厳しい投資環境下において、大手企業との提携は、スタートアップが新たな資金を引き込むための重要な要素となる。特に、精密発酵やバイオマス発酵といった最先端技術を活用する企業にとって、大手企業とのパートナーシップはその技術の実用化と市場投入を加速させる機会となる。

フォンテラの新興技術への参入はこれが初ではない。同社は2022年、DSMと共同で精密発酵により乳タンパク質(ホエイ)を開発するViviciを設立した。Viviciは今年2月、欧州企業として初めてGRAS自己認証ステータス取得した。以前の報道では、Viviciは今年後半に精密発酵ホエイを使用した最初の製品をアメリカで発売する予定となる。

今回の事例を踏まえると、同様のパートナーシップが他の企業によっても展開されていく可能性がある。

例えば、世界55ヵ国に展開するグローバルな乳業メーカーLeprino Foodsは先月、精密発酵カゼインを開発するFooditive提携した

今後は、100%植物由来の「Raised & Rooted」ブランドを展開するタイソンフーズなどの大手食品メーカーが、精密発酵脂肪や培養脂肪に取り組む企業との提携に踏み切ることも考えられる。現に、Nourish Ingredientsがフォンテラと協業するのは乳製品らしい口当たりをもたらすという「Creamilux」であり、肉らしい風味をもたらす「Tastilux」ではないことから、他の企業とのパートナーシップを模索していることも考えられる。

 

参考記事

Fonterra and Nourish Ingredients join forces to develop innovative new products

Fonterra and Superbrewed Food Collaborate to Advance Biomass Protein Technology

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:Superbrewed Food、Nourish Ingredients、FonterraのロゴをもとにFoovo作成

 

関連記事

  1. ナイジェリア初の植物肉企業VeggieVictoryに世界の投資…
  2. 国内初|グリーンカルチャーが植物性ゆで卵の開発に成功
  3. 米培養肉Upside Foods、カリフォルニアに培養肉工場を開…
  4. 米培養肉Upside Foods、培養肉用のアニマルフリーな増殖…
  5. 精密発酵でカゼインを開発するタイのMuu、来年の商用生産を目指す…
  6. 代替シーフードのAqua Cultured Foods、スイスの…
  7. Hevo Groupが代替卵製品OUVEGGをスペインのスーパー…
  8. 精密発酵でラクトフェリンを開発する米De Novo Foodla…

おすすめ記事

韓国の代替肉企業Zikooinが約26億円を調達、植物肉工場を来年稼働

韓国の代替肉スタートアップZikooinは先月、2300万ドル(約26億円)を調…

ポーランド企業Fresh Insetセミナー動画(英語)|2024年4月開催

今月23日、フードロス対策に取り組むポーランド企業Fresh Insetをお招き…

イギリス政府、代替タンパク質センターNAPICに約28億円を投資|植物性、培養肉、藻類、昆虫まで多様なタンパク質を支援

イギリス政府は先月、植物性タンパク質、培養肉、藻類、昆虫、発酵食品など代替タンパ…

アレフ・ファームズがアジアへの培養肉導入加速に向けてタイ・ユニオン、CJ第一製糖と提携

イスラエルの培養肉企業アレフ・ファームズが、アジアの食品大手2社と基本合意書(M…

培養肉企業モサミートが約20億円を調達、三菱商事も出資に参加

このニュースのポイント●培養肉パイオニアのモサミ…

米Força Foods、スイカの種由来の代替ミルクを発売|アイスクリームからスキンケアまで広がるスイカの種・アップサイクル研究事例

アメリカのスタートアップForça Foodsはこれまでにない原料を使用した代替…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

Foovoセミナー開催のお知らせ

Foovo Deepのご案内

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

Foovoの記事作成方針に関しまして

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

最新記事

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,760円(01/20 14:29時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(01/20 00:11時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(01/20 04:00時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(01/20 20:27時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(01/20 12:40時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(01/19 23:25時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP