スイスの培養肉企業Mirai Foodsが初となるシードラウンドで210万スイスフラン(約2億4千万円)の資金調達を実施した。
Mirai Foodsは2019年に設立されたスイス唯一の培養肉企業。
設立から6ヵ月で最初の培養肉試作品を作り出している。
Mirai Foodsは最初の商品として、培養牛ひき肉の開発に注力する。
牛肉から始める理由は、牛による気候変動への影響が最も大きいからで、最終的には、ほかの培養肉にも着手する予定でいる。
畜産がかかえるジレンマ
オックスフォード大学を拠点とするOur World in Dataの報告によると、人が住める土地は地球全体の71%あるが、その半分は農業に使用されている。
さらに、こうした農業用の土地のうち、家畜を飼育するための土地は77%に達し、人が食べる食料を育てるための農地は全体のわずか23%にすぎない。
家畜は農地の大部分を使うにも関わらず、家畜由来のタンパク質は供給される全タンパク質供給のわずか37%にすぎず、63%は植物由来のタンパク質となっている。
一方、世界人口は2050年には97億人に達する(現在は77億人)と予想され、このままでは、増加の一途をたどる人類の食のニーズを現在の畜産で満たすには限界がある。
こうした畜産が抱えるジレンマを解決するために取り組むスタートアップは多い。
Mirai Foodsは他社同様、生きた動物から幹細胞を採取し、細胞をバイオリアクターで成長させて培養肉を生産する。
細胞を採取する動物を飼育するわけではないため、家畜を飼育するために広大な土地や飼育施設、それに伴う水、飼料などは必要ない。
畜産に比べ、地球温暖化に寄与する影響ははるかに少ない。
遺伝子組換えされた培養肉は「当たり前」なのか?
プレスリリースによると、Mirai Foodsは2020年夏に味覚テストを実施した。味覚テストの詳細は不明だが「高評価」だったという。
同社は今回調達した資金で、試作段階の培養肉の商品化を進める。
プレスリリースで同社は細胞の遺伝子組換えをしていない数少ない企業だと語っているが、これは誤解を招く記載だといえる。
培養肉の製造工程は組織工学技術をベースにしており、遺伝子組換えを必要としない。
遺伝子操作で使うような遺伝子の挿入、削除、サイレンシング、活性化などは培養肉生産では必要とされない。動物の体内で行われるプロセスを、体外で実施しているからだ。
わかりやすくいうと、家畜由来の肉は土で育った野菜(土耕野菜)、培養肉は水で育った野菜(水耕栽培)といえる。
野菜を土で育てるか、水で育てるかの違いが、家畜を殺して肉にするか、細胞をバイオリアクターで培養して肉にするかにあてはまる。
当メディア運営者が知る限り、培養肉開発に遺伝子組換えを活用する議論があるのは確かだが、使用している培養肉企業は聞いたことがなく、実際はほとんどいないと考えている。
世界で初めて培養肉ハンバーガーを発表したモサミートのマーク・ポスト教授も「培養肉は遺伝子操作されていない」とTIME誌に語っている。
Mirai Foodsの宣伝は不必要に「自然さ」を強調することで、逆に培養肉の製造工程の誤解を招き、人々の受容度を高めようと奮闘する他社スタートアップの努力を水の泡にする発言だと危惧せざるを得ない。
もし、上記について私の理解が誤りであればご指摘いただきたい。
培養肉に取り組む他社のスタートアップ
近年、培養肉に取り組む企業が増えている。
イスラエルのアレフファームズは今月、三菱商事と提携を発表。来年にアジアで培養肉を販売予定。イスラエルのネタニヤフ首相がアレフファームズの培養肉を試食したことは記憶に新しい。
日本発のインテグリカルチャーは培養肉開発のコストを削減するバイオリアクターを独自に開発。2021年に培養フォアグラ、2025年に培養ステーキ肉の販売を目指している。
イスラエルのFuture Meatは結合組織を構成する線維芽細胞を使うことで、培養肉のコストダウンを図る。2021年早期に量産化する予定だ。
同じくイスラエルのSuperMeatは、人々の培養肉受容度を高めるために、培養肉を無料で試食できる特化レストランをテルアビブにオープンしている。このレストランからは工場の中が見え、透明性を高める狙いがある。
昨年は米イート・ジャストの培養肉が世界で初めて販売許可を取得するという快挙があり、今年も培養肉の動向から目が離せない。
Mirai Foodsは市場参入の具体的な時期は明らかにしていないが、できるだけ早くに培養肉を市場に出したいとしている。
参考記事・書籍
Mirai Foods Raises $2.1M CHF for Commercialization of Cultured Meat
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アイキャッチ画像の出典:Mirai Foods