代替プロテイン

アニマルフリーな乳製品を開発する英Better Dairyが約2億2千万円を資金調達

 

このニュースのポイント

 

  • イギリスBetter Dairyが約2億2千万円を資金調達
  • 動物を使わない乳製品を開発
  • 2022年初頭までの市販化が目標
  • パーフェクトデイと同じ微生物発酵技術を活用
  • 微生物発酵は代替タンパク質の第3の柱とされ、投資熱が高い

 

アニマルフリーな代替乳製品に取り組むBetter Dairyがシードラウンドで160万ポンド(約2億2千万円)の資金調達を実施した。

Better Dairyはイギリスを拠点とする代替乳製品のスタートアップ。

同社は、微生物(酵母)発酵技術により、動物は一切使わずに、分子的に本物そっくりな乳製品を開発している

 

微生物発酵技術を使うとはつまり、乳製品と同じタンパク質を作るよう「命令」した微生物に、乳タンパク質を作らせている

 

 

微生物発酵はなじみがないように聞こえるかもしれないが、実はわたしたちの周りには微生物発酵で作られている商品が多い

▶ たとえばサプリメントとして有名なコエンザイムQ10はサトウキビを原料に使い、酵母など微生物発酵により製造されている。

▶ 糖尿病の治療で必要なインスリン製剤は、インスリンを作る遺伝子を導入した大腸菌や酵母などの微生物を培養して生産されている。

このように、食品や医薬品に使われている微生物発酵を使って、代替乳製品を作ろうとする企業が増えている。

代替タンパク質の第3の柱「微生物発酵」

Better Dairyのほかにも、微生物発酵で「本物」と同じ商品づくりに取り組む企業は多い。

2020年半ばまでに、微生物発酵による代替タンパク質開発に取り組むスタートアップは2018年の23社から44社に増えている。 

投資も盛んで、微生物発酵を活用して代替タンパク質を開発する企業が受け取った資金は、2019年には総額2億7400万ドルだったが、2020年の最初の7ヵ月だけで前年比1.58倍の4億3500万ドルなっている。

このように、微生物発酵で代替商品を作る企業が増える要因には、サステイナビリティ(持続可能性)もある。

微生物発酵で作られた乳製品は、畜産業と比べ、必要となる土地、原材料、水がはるかに少ないほか、乳産業で使用されるホルモン剤や抗生物質を使わないからだ。

微生物発酵による代替乳製品が当たり前になれば、「知らないうちに人類がビーガンになった地球」の実現だって、決して非現実的なことではない。

Better Dairyは、まさにこの世界の実現を目指している。

植物性代替乳製品は「根本的な解決策にはならない」

Good Food Institute (GFI)によると、米国の植物性代替ミルクの年売上高は20億ドルで、植物性代替食品全体の40%を占める

売上高は、過去2年で14%増えている。

このように、植物性乳製品の人気は高まっているものの、味、栄養、口当たりいずれにおいても、植物性の代替乳製品は本物に代わる根本的な解決策にはならないとBetter Dairyは考えている。

少なくとも乳産業を破壊するには不十分だという。

この「空白」を本物そっくりなものを作ることで、Better Dairyは攻めようとしている。

2022年初頭までの市販化が目標

Better Dairyは今回調達した資金で研究開発を加速する予定。

2022年初頭までに最初の製品を市場に投入したいと考えている。現在はまだ研究開発の初期の段階だが、最初のサンプルは開発済み。

いちばんの課題は、量産化だという。乳製品は高い商品ではない。既存の乳産業を破壊するためには、現在ある乳製品と価格が同等となるよう、生産能力を高める必要がある。

微生物発酵技術によって乳産業を破壊しようとする企業はBetter Dairyだけではない。

スタートアップ数が最多なのは米国で、中でも有名なのがPerfect Day(パーフェクトデイ)だ。

2014年と他者に先駆けて創業した同社は、乳タンパク質でFDAの承認を取得。アニマルフリーなアイスクリームBrave Robotの市販化に成功している。

2番目に微生物発酵に取り組む企業が多いイスラエルでは、最近、Remilkが約11億円を調達したばかり。動物を使わない本物そっくりな牛乳を開発している。

同じく乳製品カテゴリーでは、微生物発酵によりチーズを開発するChange Foodsが11月に約9100万円を調達。このラウンドは当初の目標を大幅に上回るものだった。現在はチーズに取り組んでいるが、長期的にはほかの乳製品の開発も視野にいれている。

この2年で微生物発酵に取り組むスタートアップが急増していることから、来年は微生物発酵による代替タンパク質がさらに盛り上がっていくだろう。

Better Dairyは2019年に、Jevan NagarajahChristopher Reynoldsによって設立された。

Jevan Nagarajah(左)とChristopher Reynolds(右) 出典:joinef.com

今回のラウンドは、香港を拠点とするベンチャーキャピタルHappiness Capitalが主導し、イギリスのCPT Capital、米国のStray Dog Capital、イギリスのVeg Capitalなどが参加した。

Better Dairyがこれまでに調達した資金は総額170万ポンド(約2億3千万円)となる。

 

参考記事

Better Dairy picks up £1.6M seed funding to produce animal-free dairy

Better Dairy Raises £1.6M for Animal-Free Dairy Production

$1.5 billion invested in alternative proteins in 2020, including a record $435 million in the next pillar—fermentation

 

関連記事

 

アイキャッチ画像の出典:Better Dairy

 

関連記事

  1. 精密発酵レポート好評販売中(2022年版)
  2. 3Dプリンターで次世代ステーキを作るRedefine Meatが…
  3. ニュージーランド政府、培養シーフード開発に約8.6億円を出資
  4. アフリカ発の培養肉企業Mzansi Meat、2022年後半の市…
  5. 米Superbrewed Food、腸内細菌由来のタンパク質につ…
  6. 培養シーフードのShiok Meatsが培養肉企業Gaia Fo…
  7. ビル・ゲイツも出資|細胞培養により代替母乳の開発を目指すBiom…
  8. 欧州における精密発酵企業の規制ステータス最新状況(2024年10…

おすすめ記事

クリーンラベルの代替カゼインを開発する米Pureture、年内にアメリカで上市へ【創業者インタビュー】

ニューヨークに拠点を置くバイオテクノロジー企業Pureture(旧称Armore…

オランダ政府が細胞農業に約82億円の出資を発表、国の成長計画として培養肉産業を支援

オランダ政府は、国家成長基金(National Growth Fund)の一環と…

シンガポール・イスラーム評議会、特定条件下で培養肉をハラールと認定

シンガポールで唯一、ハラール認証を発行する権限を有するシンガポール・イスラーム評…

Fresh Insetが開発した食品鮮度保持技術Vidre+Complex、ポストハーベスト業界を超えた包装革命に期待|セミナーレポート

食品ロスの多くは、野菜や果物が収穫されてから消費されるまでの、保管、輸送、販売、…

培養サーモンの米WildTypeが培養シーフード業界史上最大の約114億円を調達

細胞培養による培養サーモンを開発するアメリカ企業WildType(ワイルドタイプ…

米イート・ジャストがシンガポール最大の植物性タンパク質工場の建設を開始

アメリカ、カリフォルニアを拠点とするイート・ジャストは、シンガポールで新しい生産…

精密発酵レポート・予約注文開始のお知らせ

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

Foovo Deepのご案内

精密発酵レポート・予約注文開始のお知らせ

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

Foovoの記事作成方針に関しまして

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

最新記事

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,760円(11/08 14:02時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(11/07 23:35時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(11/08 03:21時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(11/08 19:56時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(11/08 12:14時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(11/07 22:53時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP