代替プロテイン

精密発酵でアニマルフリーなチーズを開発する独Formoが約55億円を調達

 

微生物発酵でアニマルフリーなチーズを開発するドイツ企業FormoがシリーズAで5000万ドル(約55億円)を調達した。

Formoは調達した資金で、実証プラントを建設し、商用規模の生産を進め、チームを拡大する。さらにチーズメーカーと共同でリコッタチーズ、モッツァレラチーズなどの製品ポートフォリオを拡大する。

今回のラウンドはEQT VenturesElevat3 CapitalLowercarbon Capitalが共同で主導した。Lionheart VenturesHappiness CapitalAlbertWengerに加え、既存投資家であるAgronomicsCPT CapitalGood Seed VenturesGrazia EquityMVenturesが参加した。これは2019年のシードラウンドに続くもので、調達総額は5420万ドル(約59億円)となる。

Formoは精密発酵を使うことで、牛の代わりに微生物を飼育し、天然のものと同等な乳製品をつくる。

出典:Formo

まず、微生物に乳タンパク質を生成するためのゲノムを挿入し、「プログラム」する。プログラムされた微生物は、栄養のある条件下で乳タンパク質を生成する。十分な乳タンパク質が生成されたら、これに植物性の脂肪、炭水化物、塩などを添加して、最終製品の元となる濃縮物をつくり、チーズにする。

この手法は、微生物発酵の中でも精密発酵と呼ばれるもので、近年注目されている代替タンパク質分野の1つ。

Formoはチーズの中でもヨーロッパで主流なリコッタチーズ、モッツァレラチーズから開発に取り組む。

出典:Formo

Formoによると、同社のチーズは、動物由来のチーズと同じ味、食感、機能性を備えており、環境、人間の健康、動物福祉にとってサステイナブルで、コストを大幅に下げることができる。「飼料を食品に変換するうえで、微生物は牛よりも20倍以上効率的であるため、商用生産規模になると、消費者の支払い意欲を下げることができる」という。

現在、Formoはミシュラン星付きシェフとコラボして初の商品デモの準備を進めている。

今回のラウンドに参加したイギリスのベンチャーキャピタルAgronomicsで社外取締役を務めるジム・メロン氏は、代替タンパク質が世界の食品産業を完全に変えると考えている投資家の1人。メロン氏は次のようにコメントしている。

「精密発酵でヨーロッパをリードするFormoをさらに支援できることを嬉しく思います。彼らの進歩は、これまでの乳産業が、気候変動を減らし、人間と動物の健康を改善するのに役立つ新しい技術によってまもなく覆されるという私たちの主張を示しています」(Agronomicsの社外取締役ジム・メロン氏)

Formoの今回の調達額は、ヨーロッパのフードテック領域においては記録的な数字となる。これは、精密発酵によるタンパク質生産への注目度の高さを表している。

PFは精密発酵を示す 出典:Rethink X

現に海外シンクタンクのRethink Xは、精密発酵によって、2030年までに米国の家畜牛数が半減すると予想。精密発酵によるタンパク質の生産コストは2030年までに急激にさがるのに対し、家畜牛から牛乳を生産するコストは2倍になると予想している。

つまり、乳製品を生産するのに、牛を使うよりも、生産工場の中でゼロから生産する方が安くなるタイミングが10年以内に到来することを意味する(上グラフ)。

Formoが言う「飼料を食品に変換するうえで、微生物は牛よりも20倍以上効率的である」背景には、牛を飼育する必要がないため、製品化にまでかかる時間が大幅に短縮されること、生産過程で必要となる土地・水・飼料が少ないことなどの要素がある。牛の体からゲップ、排泄物を通じて放出されるメタンによる温室効果ガスの排出量も削減できる。

この2年、発酵タンパク質企業が増えている 出典:GFI

精密発酵の代表格パーフェクトデイが発表したデータによると、動物農業に比べ、精密発酵で作られる乳製品は、生産プロセスで排出される温室効果ガスを85%~97%削減することができる。

生産効率の高さ、環境負荷の低さから精密発酵が秘める可能性に注目し、参入するプレーヤーは相次いで登場している。

GFIの最新レポートによると、微生物発酵による代替タンパク質開発に取り組むスタートアップは現在51社あり、そのうち半数以上の28社はこの2年に登場している(上グラフ)。

この1年は精密発酵プレーヤーの資金調達ラッシュともいえ、今回の調達でFormoもこのリストに加わったこととなる。

 

参考記事

Formo Raises $50 Million to Make Animal-Free Cheese With Precision Fermentation

Berlin-based foodtech startup Formo raises €42 million to supercharge animal-free cheese production

Precision fermentation innovator Formo celebrates record funding round

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:Formo

関連記事

  1. TurtleTree、精密発酵ラクトフェリンの上市に向けて最初の…
  2. 【10/26】日本発の培養肉企業ダイバースファーム社セミナー開催…
  3. 香港グリーンマンデーがイギリス飲食店に進出、今年中に本格展開へ
  4. マクドナルド、ビヨンドミートと開発した植物性マックナゲットをドイ…
  5. スターバックスがパーフェクトデイの代替ミルクを試験導入
  6. ビール酵母をアップサイクルして代替タンパク質を開発するRevyv…
  7. 代替母乳のTurtleTree、カリフォルニアに研究施設開設を発…
  8. 【現地レポ】カナダのNew School Foods、ホールカッ…

精密発酵レポート好評販売中

おすすめ記事

FDAがSensientのチョウマメ由来の青色着色料を承認

FDAがSensientのチョウマメ由来の抽出物を着色料として承認した。Sens…

ZIKIがロボットキッチンのBowlton Kitchensを買収

1時間に300の料理が可能な料理ロボットを開発する米スタートアップ企業Bowlt…

砂糖削減・代替砂糖ソリューションを開発するスタートアップ企業13社まとめ

砂糖の過剰摂取による健康上の不安から、砂糖のイノベーションに取り組むスタートアッ…

ShiruがAIプラットフォームで開発した最初の製品「OleoPro」を商用化

アメリカのバイオテック企業Shiruは今月、AIを活用した最初の食品原料の商用化…

英SEERGRILLSが開発した3分でステーキを焼き上げるAI搭載グリルPerfecta

イギリスのスタートアップSEERGRILLSは、わずか3分でステーキを焼けるAI…

イスラエル大手食品会社Tnuva、代替タンパク質特化のR&Dセンター設立へ

イスラエル大手食品会社Tnuva(ツヌバ)は代替タンパク質分野の取り組みを強化す…

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

精密発酵レポート好評販売中

Foovoの記事作成方針に関しまして

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

Foovo Deepのご案内

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

▼運営者・佐藤あゆみ▼

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

最新記事

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,760円(07/26 13:09時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(07/26 22:36時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(07/27 02:20時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(07/26 19:03時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(07/26 11:34時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(07/26 22:02時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP