培養肉といえば、牛、豚、鶏、魚を思い浮かべることが多いが、オーストラリアのフードテック企業Vowはユニークな肉を開発することで知られる。
同社が作るのは、カンガルー、アルパカ、カメ、シマウマ、水牛など。
一見すると風変りなスタートアップ企業だが、Vowは畜産による食肉を培養肉で置き換えるだけでなく、「これまでの食肉をしのぐ」培養肉の開発を主眼としている。
これまでにない食体験の実現に取り組むVow
Vowが設立されたのは2019年。
買い慣らされていない動物の肉を開発する珍しいフードテック企業だ。
なぜ、一般には食べられない動物を開発するのだろうか?
現在、人が消費する肉の大部分は鶏、牛、豚、魚、羊となっている。しかし、フードテクノロジーの技術があれば、多種多様な動物タンパク質を持続可能な形で作りだすことができる。
共同創業者のTim Noakesmith氏は次のように語り、まだ食べられていない動物肉の可能性に着目する。
「これら(鶏、牛、豚、魚、羊)5つの動物は動物全体の0.02%にすぎません。つまり、これらの動物以外でベストな食体験を実現できる可能性が高いということです」
つまり、わたしたちが知らないだけで、もっとおいしく、栄養のある動物タンパク質の可能性がほかにあるかもしれない。
そこで、Vowはこれまでにない食肉を提供することで、新しいフードカテゴリーの構築に取り組んでいる。
これまでに培養カンガルー肉を使ったシュウマイを作っているほか、昨年9月には、6つの肉(ヤギ、豚、カンガルー、ウサギ、子羊、アルパカ)を使った料理のデモンストレーションを実施した。
他社と同様、Vowの培養肉も動物細胞から始まる。
栄養を与えられた細胞は培養装置の中で筋肉や脂肪、結合組織へと変わる。細胞から培養肉になるまでにかかる時間は6週間だという。
カンガルー、アルパカ、カメ、シマウマ、水牛など11の細胞ライブラリーを保有するVowは、この1年で従業員が5名から22名と4倍以上に増えた。
現在、ホームタウンであるシドニーに食品デザインスタジオと研究所を建設中だ。
加速する培養肉市場
Vowは今月、シードラウンドで600万ドル(約6.2億円)の資金調達に成功。
このラウンドはSquare Peg Capitalが主導し、Tenacious Ventures、Blackbird Ventures、Grok Venturesが参加した。
Vowは調達した資金でスタッフを35名まで増やし、商品の完成度を上げるとしている。
リリースの形については、外食産業に培養肉を提供する形で市場に進出したいと考えている。昨年8月の報道では、2022年までに培養カンガルー肉を市場に投入したいとしていた。
確かに、培養肉市場には追い風が吹いている。
昨年、アメリカのフードテック企業イート・ジャストの培養チキンがシンガポールで世界に先駆けて販売許可を取得したニュースは記憶に新しい。
この画期的ニュースを受けて、2021年は培養肉産業にとって「転機になる」とVowはみている。
Edison Groupが発表したレポートによると、早くて2025年には、培養肉が量産され、従来の肉と同価格になるだろうと報告されている。
世界的なコンサルタント会社AT Kearneyの報告によると、2040年には肉全体の6割は培養肉か植物肉になると予測される。
培養肉には動物の排泄物による細菌感染や、抗生物質やホルモン剤の過剰使用といった問題がない。量産化が実現すれば、温室効果ガスの排出量は減り、畜産よりも使用する土地がはるかに少なくてすむため、持続可能性を期待できる。
何より培養肉が手の届く価格帯になれば、動物を殺さずに肉を食べられるようになる。鳥インフルエンザの発生のために、大量に殺処分する必要もなくなる。
「数十億の人々の行動を変えるただ一つの方法は、今あるものより良いものを、たくさん作ることです」
とNoakesmith氏が語るように、未来の食を変える唯一の方法は、世界中の人々の多種多様なニーズや希望を満たす選択肢を提供することだとVowは考えている。
参考記事
Aussie Startup Vow Bags US$6M Seed Funding To Grow Cultured Exotic Meats Library
Kangaroo & Zebra Meat? This Australian Food Tech Is Developing Cell-Cultured Exotic Animal Meats
Vow Foods, Maker of Cell-Based Kangaroo and Other Meats, Raises $6M
Square Peg, Blackbird and Grok pile into cell-based meat start-up Vow