イスラエルの培養魚企業Wanda Fishは、同社初となる培養マグロによる刺身・培養トロを発表した。これはクロマグロの細胞から作られた筋肉と脂肪に植物成分を組み合わせて作成したものとなる。
Wanda Fishの共同創業者・CEO(最高経営責任者)のDaphna Heffetz博士は、培養トロ製品の開発における焦点は、本物のマグロの刺身と同程度の霜降りを実現することで、同等の見た目・食感を作り出すことだったと述べている。
Wanda Fishが初となる培養トロ試作品を発表
細胞を動物の体外で増やして食肉とする細胞培養の領域において、魚肉は牛肉や鶏肉など畜産肉ほど多くないものの、スタートアップ企業数は増えており、Foovoの調査では39社が確認されている。
漁獲数増加により絶滅の恐れがあると危惧されるものの、養殖が難しいマグロなどの魚種を、持続可能で安定的に生産する方法として細胞培養が注目されている。細胞培養技術により、マイクロプラスチック、水銀などを含まないクリーンな製品として、施設内で年間を通じて製造できるようになるが、培養魚の販売が認められた企業はまだない。
2021年に設立されたWanda Fishはその1社であり、昨年10月に約10億円のシード資金を調達した。当時、「試作品到達まであとわずか」と述べていた通り、今回、培養トロが発表された。
プレスリリースによると、Wanda Fishが特許出願中のクロマグロ細胞の脂肪形成を誘導する技術とホールカットの下流製造工程では、迅速かつ低コストで拡張可能な生産方法が採用されている。この独自の脂肪形成と下流工程が、クロマグロのとろける感覚を再現するうえで鍵となっているようだ。
Wanda Fishの培養トロには、天然のトロと同等レベルのタンパク質、オメガ3脂肪酸が含まれている。完成度の高い培養刺身製品を開発するにあたり、Wanda Fishはベテランシェフを雇用した。
2025年に承認申請へ
Green queenの報道によると、Wanda Fishは2025年に当局に承認申請を行う予定だという。上市の時期は2026年を見込んでおり、日本料理を中心とした高級レストランで、数量限定で販売を開始する予定だ。
これは、培養肉を最初に販売し、先日シンガポールの小売店で培養肉を発売したGOOD Meat(イート・ジャストの培養肉子会社)や先月シンガポールで初販売を実現したVowなど、さまざまなスタートアップ企業が採用してきた手法だ。
今回発表された培養トロ開発の目的は、野生のトロの特性を維持しながら、2つの成分を適切に混合する技術の開発にあったとHeffetz博士はGreen queenに語っている。培養細胞も「かなりの割合」で使用しているが、製品の大部分は植物成分だという。
培養シーフードで増える試作品
培養シーフードの領域では、昨年末から数社が新たに試作品を発表している。アメリカのAtlantic Fish Coは先月、世界で初めて細胞培養によるブラックシーバスを発表した。
オルガノイド技術で培養うなぎを開発するイスラエルのForsea Foodsは今年1月、初となる培養うなぎ試作品を発表。あわせて、都内のヴィーガンレストラン「菜道」との協業を発表した。
同じくイスラエルのEFISHient Proteinは昨年12月、同社初となる培養ティラピアの試作品を発表した。
ドイツのBluu Seafoodはこれまでに鮭・マスのフィッシュボールやフィッシュフィンガーの試作品を生成している。先月、来年のシンガポール進出に向けて、欧州発となる培養シーフード生産施設をドイツ、ハンブルクに開設した。
培養シーフード業界で最も注目される企業は、アメリカに拠点を置くBlueNalu(マグロ)とWildtype(サーモン)だろう。いずれの企業もアメリカで生産施設を開設している。BlueNaluは2026年に大規模施設の着工を予定しており、早くから住友商事の出資を受け、スシローを運営するフード&ライフカンパニーズとも提携している。
参考記事
Wanda Fish Unveils Its First Cell-Cultivated Bluefin Tuna Toro Sashimi
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アイキャッチ画像の出典:Wanda Fish