今年は培養うなぎで大きな進展が相次いだ1年になった。
8月、北里大学の池田大介准教授らの研究チームが、ニホンウナギ(Anguilla japonica)の筋肉組織から自発的に不死化した筋芽細胞株の樹立に成功した。
海外では、イスラエルのスタートアップ企業Forsea Foodsが独自のオルガノイド技術を活用し、培養ウナギ生産における細胞密度を大幅に向上させた。Forsea Foodsは今月、最小限の培地を使用しながら、オルガノイド技術で1mLあたり3億個を超える細胞密度を達成したことを発表した。
細胞密度は1mL中の細胞の数を示すため、細胞密度が高いほど、効率的に培養肉を生産できることを意味する。Forsea Foodsによると、3億個/mLは、培養肉業界で記録された最高の細胞密度だという。
同社は2026年の上市を目指している。
商業規模での生産に進む準備整う
Forsea Foodsは今年1月、世界で初めて培養うなぎの試作品を発表した。6月にはイスラエルで培養うなぎの試食会を開催し、イスラエルに拠点を置く日本の食品メーカーの代表、日本大使館の代表などを含む参加者に培養うなぎの蒲焼きなど3つの料理を提供した。
同社は今回、概念実証としての連続収穫プロセスを完了し、商業規模での培養魚生産に進む準備が整ったと報告している。
Forsea Foodsは幹細胞を特別な環境で育てて、小さな臓器や組織を作り出すオルガノイド技術を使用して培養うなぎを開発している。
オルガノイドによる培養魚開発では足場を必要とせず、成長因子への依存を大幅に軽減できる。魚の細胞が脂肪、筋肉、結合組織の自然な構造を持つ三次元構造を自発的に形成するため、従来よりも自然に即したアプローチとして注目されている。
うなぎは絶滅危惧種であり供給不足にあるが、完全養殖が難しい。日本では、2023年に世界全体の販売量の約50%に相当する14万トンが販売された。細胞培養によるうなぎ開発は、うなぎ個体数に対する負担を軽減し、うなぎ養殖の環境への影響を軽減することが期待される。
今回の成果について同社創業者兼CEO(最高経営責任者)のRoee Nir氏は次のように述べている。
「最小限のリソースでこのレベルの細胞密度を達成したことで、ユニットエコノミクスが大幅に削減され、培養シーフードの生産コストが従来の市場価格を下回ることになります。これは Forseaにとって大きなマイルストーンであり、持続可能で高品質のシーフードを手頃な価格で広く提供するという当社のビジョンを実証しています」
Forsea Foodsは2022年10月にシードラウンドで520万ドルを調達した。Green queenの報道によると、今後シリーズAラウンドを開始し、パイロット工場の建設を目指している。
同社は2026年の上市を目指している。事業開発マネージャーを務める杉崎麻友氏は、「可能であれば日本で最初に販売を開始したい」とCNET Japanによるインタビューで述べている。
日本では現在、培養肉・魚を販売するための法整備が整っておらず、この現状を変えようと、約40の企業・アカデミアが参画する細胞農業研究機構(JACA)が法整備の促進を呼びかけている。JACAは先月21日、消費者庁・農林水産省に提言を提出した。
2026年の上市に向け、これからの動きが注目される。
参考記事
Forsea Achieves Record-Breaking Cell Density for Its Cultivated Seafood(プレスリリース)
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アイキャッチ画像の出典:Forsea Foods