精密発酵で母乳タンパク質を開発するポルトガル企業PFx Biotechは今月、シードラウンドで250万ユーロ(約4億1,000万円)を調達した。
加えて、EICアクセラレーターから同額の助成金を獲得しており、今回の調達総額は500万ユーロ(約8億2,000万円)にのぼる。クランチベースによれば、累計調達額は1450万ユーロ(約24億円)となった。
今回のラウンドを主導したBuenavista Equity PartnerのBibi Sattar Marques氏は、「PFx Biotechは、精密発酵を商業規模で実現可能にするために必要な科学的な深さ、技術的な実行力、先見的なリーダーシップを兼ね備えた数少ない企業の一つであると信じています」と評価している。
2022年に設立されたPFx Biotechは、ラクトフェリン、オステオポンチン、α-ラクトアルブミンといったヒト母乳タンパク質を精密発酵でによって開発している。

Ali Osman博士 出典:PFx Biotech
共同創業者兼CEOのAli Osman博士は、以前Foovoによるインタビューで、牛乳アレルギーのある子どもの育児経験から、ヒト母乳タンパク質に関心を向けたと述べた。
「トレンドに追随するだけでなく、栄養の新たな基準を作ろうとしています」と述べ、ラクトフェリンやオステオポンチンといった母乳に含まれる健康促進成分の重要性を強調していた。
精密発酵などの新しい技術が社会に受け入れられるようになったとき、単にタンパク質を代替するのではなく、栄養価と健康価値の高いタンパク質を提供したいとの想いを語っていた。
Osman博士は今回の資金調達について、「これはPFx Biotechにとって決定的な節目の瞬間です」とコメント。「新たな成長のステージに入る中で、研究開発、スケールアップ、市場導入の機会において、戦略的な協業を積極的に模索しています」と述べ、資金はラクトフェリンのスケールアップ、自社研究施設、チームの拡大にあてるとの考えを示している。
今回の発表は、TurtleTreeが世界で初めて精密発酵ラクトフェリンでアメリカにおけるGRAS認証を取得した直後のタイミングで報じられた。
TurtleTreeが製造するのは“ウシ”ラクトフェリンだが、精密発酵による同タンパク質の認可・市場投入の先例として、ヒトラクトフェリンの開発を進めるPFx Biotechにとっても、投資家の関心を高める材料となりうる。
ウシラクトフェリンに関しては、オーストラリアのAll Gが昨年末にGRAS自己認証を宣言しており、同社は最近、今年第4四半期にウシラクトフェリンを、2026年初頭には2つ目のタンパク質・ヒトラクトフェリンを発売予定だと発表している。
Foovoの調査では、現在のところ精密発酵ラクトフェリンを実際に上市したのはTurtleTreeのみだが、この数年で、インポッシブル・フーズのヘムを皮切りに、ホエイタンパク質、甘味タンパク質、卵白タンパク質など、精密発酵由来の成分の市場投入が続いており、採用事例は日本企業にも広がっている。

PFは精密発酵を示す 出典:Rethink X
精密発酵タンパク質のコスト競争力に関しては、2019年にシンクタンクRethink Xが公開したレポートで、2025年頃に牛由来の乳タンパク質との生産コストが逆転すると予想されていた。
同シンクタンクは2024年7月の時点でも、この見通しを維持しており、コスト同等化は「手の届く段階にある」と述べ、その背景として、規制承認の進展、乳業業界の参入、精密発酵食品の増加などを挙げている。
※本記事は、リンクトインの発表をもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。
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アイキャッチ画像の出典:PFx Biotech