左から山田望氏、羽生雄毅氏、川島一公氏 Foovo(佐藤あゆみ)撮影
細胞農業の民主化を目指すインテグリカルチャーは、事業の黒字化が目前になったことを明らかにした。
18日に高輪ゲートウェイシティのシェアラボ「LiSH」で開かれた事業説明会で共同創業者兼CEO(最高経営責任者)の羽生雄毅氏は、「業界初の黒字化が目前まできました。今期決算で、事業として成立する見通しがほぼ確実に立ちつつあります」と述べた。
COO(最高執行責任者)の山田望氏によると、現在の収益は化粧品分野と受託共同研究が半分ずつを占める。
同社はIPOを視野に、2027年の国内における細胞性食品の上市に加え、自社技術を湘南ヘルスイノベーションパーク以外の拠点へ展開する計画だ。また、細胞農業を地域資源と結びつける地方創生モデルの構築にも取り組みを広げている。
2030年にプロテインクライシスが起こるとされるなか、羽生氏は「食料危機は値上げの形ですでに始まっています」と警笛を鳴らす。タンパク質に限らず食料価格全体の上昇が社会不安につながる可能性を指摘し、その解決策として細胞農業が持続可能な食料システム支えるだけでなく、新たな地方創生モデルになると考えている。
細胞農業による地方創生モデルへ

Foovo(佐藤あゆみ)撮影
インテグリカルチャーが地方創生モデルに踏み出す背景には、技術確立とエコシステム構築というこれまでの積み上げがある。
2015年創業の同社は、細胞農業の社会実装を支える基盤づくりに取り組んできた。
2025年9月時点で19社が参画するオープンイノベーションの「カルネットコンソーシアム」をはじめ、企業の新規参入を支援する受託共同研究サービス「カルネットパイプライン」、資材や知見を提供するB2Bマーケットプレイス「勝手場(Ocatté Base)」など、産業横断的な独自のソリューションを展開している。
同社は2019年、アヒル肝臓由来の細胞を用い、世界で初めて完全食品グレードの細胞性食品の生産に成功。卵の細胞培養上清液を原料とする同社素材「セラメント」はユーグレナを含む10社以上に採用され、化粧品分野での社会実装が進んでいる。2023年2月に続き、今年2月には2回目の官能評価会を実施した。
今月には、一正蒲鉾とマルハニチロの3社で進めてきた細胞性すり身の共同研究プロジェクトにおいて、生産技術の探求フェーズを完了し、次の開発段階へと移行することを発表した。
2029年に月産320kg体制へ

Foovo(佐藤あゆみ)撮影
動物細胞の増殖には、栄養成分と血液成分の双方が必要になる。
インテグリカルチャーは創業当初から、栄養成分をすべて食品原料で代替する技術開発に取り組み、2023年には食品原料からなる基礎培地「I-MEM 2.0」を開発した。さらに血液成分についても、外部から成長因子を加えるのではなく、体内の仕組みを模倣し、装置内部で生成する「CulNet®(カルネット)システム」を構築した。これにより、細胞培養に必要な原料を食品素材のみで完結させる体制を整えている。
現在、同社は月産10kg規模で細胞性食品を生産しており、2029年までに月産320kgの装置の実装を目指している。10kg規模では100gあたり約3万円のコストが、320kgへのスケールアップで約3,000円まで低減できる見込みだという。
並行して安全性試験も進めており、現時点までのデータでは、安全性に問題は確認されていない。
地域性を活かした「共感」を軸に、行動変容につなげる

食品グレード培地でアヒルの細胞を培養した試作品 Foovo(佐藤あゆみ)撮影
同社が次に見据えるのが、細胞農業による地方創生だ。「安全・安心」「おいしさ」に加え、地域の特色を生かした食文化への「共感」を軸に、地域発の新たな細胞農業モデルの構築に取り組んでいる。
同社は、培養に使用する水の違いが細胞のフレーバーに影響を与えることを見出した。全国各地の水を用いてアヒル細胞を培養したところ、水ごとに風味が変化することが確認され、日本酒のように「水の個性」が「細胞の個性」として表れることが明らかになった。
「ローカルから始まる次の産業革命」

羽生雄毅氏 Foovo(佐藤あゆみ)撮影
次に着目したのが酒蔵だ。
日本酒の製造過程で生じる副産物から栄養成分を抽出し、地域の天然水と組み合わせて細胞を育てられることが分かった。これにより、酒蔵自身が“個性あるお肉”をつくり、来訪者に提供するといった体験型の地域ビジネスが構想可能となる。
日本酒の飲み比べがあるように、細胞農業による「酒蔵ごとの培養肉の食べ比べ」という新しい地方の魅力づくりが期待される。
山田氏は、「綺麗な水、使われていない資源、弊社の技術を掛け合わせ、各地域から新しい産業を生み出す、ローカルから始まる次の産業革命を起こしたいです」と述べた。
共同創業者兼CTO(最高技術責任者)の川島一公氏によると、製造プロセスが醸造と近い点への親近感や、日本酒市場が縮小する中で新たな事業基盤になる可能性から、酒蔵からも前向きな反応が得られているという。酒蔵の中に約30㎡のスペースを設け、マイクロブルワリー方式での設置を構想した設計を進めている。
すでに、新潟県の津南醸造と提携した。日本の伝統産業に細胞農業を加えることで、日本独自の新しいモノづくりが生まれる可能性がある。
取材日:2025年11月18日
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アイキャッチ画像はFoovo(佐藤あゆみ)撮影





















































