このニュースのポイント
●米パーフェクトデイがシンガポールに新拠点
●微生物を使ってアニマルフリーな乳タンパク質を生成
●シンガポール科学技術研究庁との共同研究施設
●2021年4月にオープン
●フードテック企業にとってシンガポールは重要な立地
●微生物発酵で代替タンパク質を開発する企業は急増中
動物を使わずに乳製品を作るパーフェクトデイ(Perfect Day)がシンガポールに研究開発拠点を設置することを発表した。
新しい研究開発施設はシンガポール科学技術研究庁(A*STAR)との協業による共同研究施設となり、2021年4月にオープンする予定。
パーフェクトデイがシンガポールに新拠点を設置
パーフェクトデイは、微生物を発酵させて、動物を使うことなく本物そっくりな乳タンパク質を開発する米国のスタートアップ。
同社のアニマルフリーな乳タンパク質を使ったアイスクリームはBrave Robotというブランドで販売されている。
パーフェクトデイによると、シンガポールに建設される新しい研究施設は、パーフェクトデイの発酵プロセスとタンパク質成分の正確性、特性、整合性を担保するうえで不可欠となる、分析システムの開発に焦点をあてるとしている。
このほか、ミクロフローラによるタンパク質の開発をシンガポールでさらに加速するために、研究者、科学者、エンジニアを雇用、養成していくとしている。
今回の協業はパーフェクトデイの研究開発を加速するだけでなく、シンガポールで雇用創出の促進にもつながる。
ミクロフローラとは、複数の微生物が増殖して集団となった状態を指す。
顕微鏡で観察すると、色々な花が集まったように鮮やかに見えることから、「フローラ」と呼ばれる。
パーフェクトデイの従業員は現在200人ほどだが、近いうちに、シンガポールの従業員が全体の10%を占めると予想される。
アニマルフリーな乳タンパクを開発したパイオニア・パーフェクトデイ
パーフェクトデイは2014年にRyan Pandya(ライアン・パンドヤ)とPerumal Gandhi(ペルマル・ガンディ)が創業したカリフォルニアを拠点とするスタートアップ。
同社は、微生物にカゼインと乳清(牛乳から脂肪分やカゼインをのぞいた水溶液のこと)の遺伝情報を組み込み、微生物を発酵させて本物の乳タンパク質を作成させる。
生成された乳タンパク質を注意深く単離して、植物ベースの糖質、脂肪、栄養素を混ぜ合わせ、牛乳と同じ味や口当たりを持つミルクを作り出している。
パーフェクトデイは、微生物に遺伝情報を導入するときにバイオ3Dプリンターを使っている。
このように、微生物に牛乳の遺伝情報を与えて「プログラミング」し、乳タンパク質を作り出す。動物は一切使わない。
こうしてできた乳タンパク質から、アイスクリーム、チーズ、ヨーグルトを作れる。できあがる製品は乳製品とそっくりなものだが、既存の乳製品よりも、必要となる土地・水・エネルギーが少なく、サステイナブルとされる。
パーフェクトデイの乳タンパク質は、コレステロール、グルテン、ラクトース、ホルモン剤、抗生物質を含まない。
ミルクアレルギーについては、同社の乳タンパク質は本物であることから、製品には注意書きがされる。製造プロセスの一部で遺伝子導入が行われているが、生成されるタンパク質には遺伝子組換えされた物質は含まれていない。
フードテックを新たな成長産業とみるシンガポール
この1年のフードテック企業の動きを見るかぎり、シンガポールはフードテック企業が成長を加速するうえで、重要な立地と言える。
シンガポールは都市国家であり、農業用地は国土のわずか1%。
同国はこれまで食料の90%を輸入に頼っていた。しかし、現在は細胞から作る培養肉や、アグテックに取り組む企業に積極的に投資している。
その背景には、新型コロナウイルスの感染拡大により、世界の食品サプライチェーンが遮断されたことが大きく関係する。
シンガポールはフードテック・アグテックを次の成長産業と位置付け、2030年までに食料自給率を30%まで引き上げる新たな目標を打ち出した。今年4月には、フードテックのイノベーションに2100万ドルを出資する助成金プログラムをたちあげている。
12月には、シンガポールは世界で初めて培養肉販売を承認。米イート・ジャストの培養肉は19日、シンガポールのレストランで販売され、記念すべき「世界で初めて販売された培養肉」となった。
地元発の培養肉企業Shiok Meatsは11月に培養ロブスター試作品を発表、2022年までにシンガポールのセノコに生産工場を建設する予定だ。
スイスのプロセステクノロジーに特化したBuhler(ビューラー)とスイスの世界最大の香料メーカーGivaudan(ジボダン)は、植物ベース食品のためのイノベーションセンターをシンガポールに建設することで協業している。
これらのニュースに続き、微生物発酵の先駆者であるパーフェクトデイの新たな拠点がシンガポールに設けられることとなった。
今後はさらに多くのフードテック企業がシンガポールに進出していくと考えられる。
微生物発酵で代替タンパク質を開発するスタートアップは急増中
微生物発酵によりタンパク質を作る企業がこの2年で急速に増えていることにも注目したい。
2020年半ばまでに、微生物発酵による代替タンパク質開発に取り組むスタートアップは2018年の23社から44社に増えた。
パーフェクトデイのように、微生物を発酵させて乳タンパク質を作る企業は、米・オーストラリアのChange Foods、イスラエルのRemilk、イギリスのBetter Dairyなど、次々と登場している。 この3社だけで、この1ヵ月で調達した資金は総額14億円を超える。
微生物発酵は代替タンパク質の第3の柱として注目されており、パーフェクトデイのシンガポール進出は、この流れをさらに加速するものになるだろう。
参考記事
A*Star, alternative protein firm Perfect Day setting up joint R&D lab in Singapore
Perfect Day Is the Latest Alt-Protein Company to Head to Singapore
A*STAR to collaborate with animal-free dairy firm Perfect Day on joint lab in Singapore
3D printing could be key to creating authentic-tasting cow’s milk, without the cows
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アイキャッチ画像の出典:Perfect Day