アップサイクル

廃棄大麦から代替タンパク質を開発するEverGrain|世界最大の醸造会社の大麦をアップサイクル

 

世界で1年間に醸造で使用される大麦は900万トンとされる。

使用済みの大麦は、廃棄されたり、動物飼料や肥料にされたりする。

ベルギーを拠点とする世界最大の醸造企業アンハイザー・ブッシュ・インベブ(以下、AB InBev)の元グローバル副社長グレッグ・ベルト(Greg Belt)氏は、廃棄される大麦の活用方法を5年間考えつづけた

廃棄大麦には豊富な栄養を含まれている。ビールを作るのに適していないとしても、何か他のものに転用できないだろうか?

 

ベルト氏は、植物ベースのタンパク質に対する関心が高まっていること、消費者のトレンドが変化していることに着目。

こうして、廃棄大麦をタンパク質に変身させるスタートアップ企業EverGrainを立ち上げた。

同社は、AB InBevのベンチャー部門ZX Venturesから出資を受けている。

このように、廃棄されるもの・古くなったものに新たな付加価値を持たせ、

価値の高い、別のモノに生まれ変わらせることを「アップサイクル」という。

 

食料廃棄物のアップサイクルの市場規模は2019年には467億ドル(約5兆円)と言われており、Upcycled Food Associatonなどの協会も誕生している。

同社の大麦由来のタンパク質粉末は、現在、アメリカ・オレゴンにある大麦ミルク会社Take Twoの製品に使われている

今年第1四半期にはアメリカ・ヨーロッパで、パートナーと提携してプロダクトローンチする予定で、現在、100以上のプロジェクトが進行中だという。

5年かけて開発された大麦由来タンパク質

廃棄大麦から作られるものは、穀物を製粉した粉末(穀粉)であることが多い。ベルト氏は、最善の方法で廃棄大麦を活用したいと考えた。

EverGrainは大麦に含まれるタンパク質とその構造について研究をつづけ、大麦由来のタンパク質のもっとも良い使い方を見つけた。そして、栄養素を有用で機能的な成分に変える方法に取り組んだ。

ベルト氏によると、大麦由来のタンパク質を作るには、ビールの醸造で使用した後、すぐに行わないといけないという。

こうして作りだした大麦由来のタンパク質は「他の植物タンパク質と違う」とベルト氏は語る。

出典:EverGrain

まず、味が極めてニュートラルなため、苦味抑制剤やさまざまな用途に合わせるために濃い味付けをする必要がない。

また、タンパク質含量が高い。すべてのアミノ酸を含んでいないが、不足するアミノ酸はえんどう豆にあるので、えんどう豆を使えば補完できる。

さらに、大麦タンパク質は95%水に溶けるので、外観や質感を変えることなく、飲料品に栄養素を添加することもできるという。

EverGrainはこの「溶けやすい」タンパク質を売りにしている。

同社は現在、次の2つの製品を販売している。

●大麦タンパク質Everpro

●繊維が豊富な大麦タンパク質EverVita

 

Everproタンパク質を85%含み、牛乳、コーヒー、スムージーなどさまざまな用途がある。すでに、植物ベースの乳製品に使う成分として販売されている

可溶性ならではの性質を利用して、アイスティーなど普通ならタンパク質を加えないドリンクにも添加できるという。

EverVitaは、タンパク質35%、繊維40%の大麦粉末で、市販の焼き菓子やパスタなどに使われているベルト氏によると、商品に対する反応は非常に良好だという。

アップサイクルが秘める可能性

出典:EverGrain

ベルト氏は、会社が大きくなっていけば、世界中の醸造所の近くに生産施設を持てると考えている。

EverGrainはベルト氏が在籍していたAB InBevから原材料を調達している。AB InBev世界中に260を超える醸造所を構え、廃棄大麦は年間140万トンにのぼる。

つまり、これだけの数だけ、タンパク質を作るための原材料があるということだ。

作られるタンパク質はもともとあるものを使っているので、新たに広大な土地を持つ必要もなく、持続可能な生産システムだ。

同社が作る大麦タンパク質Everproはタンパク質を85%含むが、生産プロセスでは繊維が残留する。現在、同社はこの残留する繊維を使って、3つ目の商品開発に取り組んでおり、今年後半にはリリースできるとしている。

同社は現在、AB InBevと提携しているが、海外の醸造企業とのコラボにも意欲的だ

AB InBevのほかに、世界中の醸造所から出る廃棄大麦からタンパク質を作るようになれば、必要となる土地、水、エネルギーを大幅に抑えられる。持続可能な世界の実現にさらに近づく。

こうしたアップサイクルに取り組む企業は増えており、ポーランドのNapiFerynは、なたね油粕から代替タンパク質粉末を開発している。 

コーヒーかすなどの副産物から、グルテンフリーな粉末や化粧品オイルを作るKaffe Buenoは、世界最大の香料メーカー・ジボダンと提携している。

そのままでは捨てられてしまうものに新しい付加価値を加えて、原料を循環させるアップサイクルは、持続可能な世界・経済の構築に貢献するほか、新しいビジネスチャンスも生み出す。

そんなチャンスの種がまだ眠っているかもしれない。

 

参考記事

EverGrain upcycles AB InBev’s barley waste into plant-based protein

EverGrain “revolutionizes barley” with high protein transformation

Barley protein emerging as attractive new option in plant protein toolbox, says AB InBev-backed upcycling startup EverGrain

 

関連記事

 

アイキャッチ画像の出典:EverGrain

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