代替プロテイン

培養魚スタートアップのFinless Foodsが植物性マグロにも参入、2022年までに市販化へ

 

培養魚を開発するアメリカのFinless Foodsが、植物性代替マグロに参入することを発表した。

Finless Foodsの植物性代替マグロは、調理され、味付けされた9の成分を使用して、マグロの味と食感を作り出している。

新しく開発された植物性マグロは2022年までにレストラン、外食産業を通じて市場へ投入される予定

細胞ベース・植物ベースの代替マグロに注力するFinless Foods

Finless Foodsといえば、細胞農業によって培養マグロを開発しているサンフランシスコのスタートアップ。

現在、アメリカで培養マグロの承認申請に向けたプロセスを進めており、来年にアメリカのレストランで販売たいと考えている。

アメリカ以外では、日本、中国、シンガポールでの発売についても検討していることを海外メディアiNewsが報じている。

出典:Finless Foods

現在までに培養肉を販売した事例は、アメリカのイート・ジャストのみ同社は2020年12月にシンガポールで世界に先駆けて培養鶏肉を販売した。

Finless Foodsはアメリカ、イギリスでの規制承認に向けて動いてきたが、イギリスの規制については「厳しすぎ」るため、同国で販売するには長期間を要するとしている。

共同創業者・CEOのMichael Selden氏は、イギリス市場に培養魚肉を投入することは「非常に難しい」とコメント。

EU離脱後、イギリスは「新規食品」についてEUの規制を使用している。この規制では、新規食品は「1997年5月以前にイギリスまたはEUで広く消費されていないもの」と定義されている。

出典:Finless Foods

この規制は培養肉企業にとっては困惑するほど厳しいものだとSelden氏は指摘し、イギリスでの承認申請のハードルが高いことに言及している。

同氏は「イギリス市場へ培養肉を投入する道は全くないようだ」と語り、培養肉という先端テクノロジーにより関心のある国にリソースを投入しようと考えている。

植物ベース魚で市場参入を進める

培養肉はようやく市場に出るケースが出始めた段階で(培養魚はまだ市販化されていない)、複数国での市販化にはまだ時間がかかる。

これに対し、植物性代替魚に対する規制はそれほど厳しくない

Finless Foodsは新しく開発した植物性マグロを来年までにアメリカ市場へ投入し、その後は海外展開したいと考えている。

同社が植物ベースに参入するのは、ターゲット層を広げるうえでもメリットがある。

出典:Finless Foods

細胞培養によって作られる培養シーフードは、本物の魚肉と同じになるため、魚介アレルギーのある人は食べられない。

一方、植物魚であればアレルギーのある層にも訴求が可能となる。

この戦略は、個体数減少が危惧されるマグロの代替品にまず注力したいFinless Foodsにとって好都合といえる。

培養マグロの許認可が下りるのを待つ前に、植物マグロを市場へ投入すれば、海洋生態系への悪影響に歯止めをかけることができる。

さらに、まだ収益を生み出せていない培養魚の開発と並行して、植物マグロにより収益を出すことが可能となる。

「マグロは海洋の健康にとって重要な役割を持っており、歴史的に水産養殖が難しい種です。

私たちは、実行可能な代替案を開発することが、海に最大かつ本当の影響を与えると考えました」(共同創業者のBrian Wyrwas氏)

代替シーフードにはまだ「市場の空白」がある

過剰漁獲により、2048年までに魚はいなくなるといわれている。

マグロなどの魚がいなくなった場合、食物連鎖が崩れ、生態系への影響が危惧される。

また、養殖では、過密な飼育環境に伴う病気の予防、成長促進を目的として抗生物質が使用されており、抗生物質が残留した食品を人が摂取することで、耐性菌(抗生物質が効かなくなった細菌)が生じる可能性が懸念されている。

寿司屋でマグロ寿司を100~200円で食べられる日本の現状では想像しがたいかもしれないが、マグロの個体数は1954年から2006年にかけて60%減少している。

Brian Wyrwas氏とMichael Selden氏 出典:Finless Foods

こうした海洋生態系への悪影響に歯止めをかけるために、市場には植物ベース・細胞ベースの代替シーフードに取り組むスタートアップが登場している。

アメリカではGood CatchOcean Hugger FoodsKuleanaNew Wave Foodsがすでに植物性シーフードで市場に参入しており、ヨーロッパではHookedといったスタートアップも登場している。

培養魚については、クロマグロ、ブリなどを開発するアメリカのBlueNaluが今年後半にアメリカでテスト販売する予定でいる。もしBlueNaluの予定通りに進めば、Finless Foodsの培養魚が来年アメリカのレストランで提供される可能性が高まる

GFIは植物ベースの代替魚市場について、現在は植物ベース全体の1%にすぎないとし、市場に空白があることを報告している。

代替肉、代替乳製品に続き、今後は代替シーフード市場からも目が離せない。

 

参考記事

Finless Foods: ‘Restrictive’ regulations puts UK last in the queue for lab meat

Cultured Seafood Company Finless Foods Expands into Plant-Based Tuna

Cell-Cultured Startup Finless Foods Makes Plant-Based Entry With Tuna Product

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:Finless Foods

 

関連記事

  1. 中国の培養肉Joes Future Foodが約12億円を調達、…
  2. 大手プロテインブランドMyproteinが精密発酵タンパク質を使…
  3. シンガポール企業Mycosortia、おからをアップサイクルした…
  4. スイスの培養肉企業Mirai Foodsがシードで約2億3千万円…
  5. 北大発のFloatmeal、ウォルフィアの本格生産に向けた実証試…
  6. 細胞培養によるカキを開発するアメリカ企業Pearlita Foo…
  7. イリノイ州が精密発酵の推進に向けて、iFAB Tech Hubに…
  8. 菌糸体から代替肉を開発するMushlabsが欧州イノベーション会…

おすすめ記事

夕飯の準備は出社前の2分で完了!冷蔵機能のあるスマート調理器具Suvie

仕事の帰宅途中、スーパーによって食材を購入し、自宅で夕飯の支度をする…そ…

Evigence Sensorsが約23億円を調達、食品鮮度をリアルタイムに測定するセンサーシールの商用化を拡大

イスラエル・アメリカを拠点に、リアルタイムの食品鮮度検知センサーを開発するEvi…

中国の培養肉企業Joes Future Food、パイロット工場建設のための資金を獲得

中国の培養肉企業Joes Future Food(周子未来)は先月、シリーズAラ…

イート・ジャストの代替卵JUST Eggが欧州の安全性承認を取得

米イート・ジャストの代替卵JUST Egg(ジャスト・エッグ)の主要成分が、欧州…

Vivici、欧州企業で初となる精密発酵タンパク質のGRAS自己認証ステータスを発表、年内にアメリカで発売へ

オランダの精密発酵企業Viviciが、精密発酵由来ホエイタンパク質についてGRA…

赤い微細藻類で代替肉を「血の滴る肉」に変えるイスラエル企業Yemoja

微細藻類を活用した成分開発に取り組むイスラエル企業Yemojaは、化粧品用の成分…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

Foovoセミナー開催のお知らせ

Foovo Deepのご案内

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

Foovoの記事作成方針に関しまして

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

最新記事

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,760円(01/26 14:33時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(01/26 00:12時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(01/26 04:03時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(01/26 20:28時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(01/26 12:42時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(01/25 23:27時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP