Vowの培養ウズラ(2024年4月 Foovo佐藤撮影)
培養肉など細胞性食品の制度整備に向けた動きが進みつつある中、一般社団法人細胞農業研究機構(JACA)は5月、国内で製造・輸入される細胞性食品の安全性を確保するための指針「国内における細胞性食品のリスク評価及び管理方針に関する考え方」(以下、専門家案)を策定し、消費者庁食品衛生基準審査課新開発食品保健対策室(以下、消費者庁)に提出した。
消費者庁では2024年11月から調査部会において安全性の審議が開始されており、2025年夏頃にはガイドライン案の中間案が示される見通しだ。JACAはこうした制度整備の議論を後押しすべく、専門的知見を横断的に整理した形で同案を提示した。
現在、日本では培養肉など細胞性食品に関する明確な制度が存在しない。研究開発は前進しているものの、安全性を評価する枠組みや、製造・販売に関するガイドラインが未整備であるため、社会実装の道筋が見えないのが現状である。
JACA代表理事の吉富 愛望 アビガイル氏は、細胞性食品の販売を禁じる規制が存在しない一方で、制度が未整備であるがゆえに企業は販売を自粛し、行政も実例がない中でルール形成が難しいという“両すくみ”の状況が生じていると以前より指摘してきた。
JACAは昨年、消費者庁・農林水産書に提言書を提出。今回、「共通の専門的知見」の形成促進を目的に、専門家案を消費者庁に提出した。
吉富氏はFoovoへのメールで「消費者庁側の議論を進める一助になってほしい」と述べている。

出典:JACA 2024年10月
専門家案の作成は、食品衛生学、毒性学、獣医学、再生・細胞医療などに精通する国内外の独立した専門家22名と5名のコンサルタントが参画。シンガポールでの販売認可を取得したVowの申請実務に関わったメンバーや、現地の新規食品審査を支援するFRESHのメンバー、欧州食品安全機関(EFSA)の元職員など、国際的な知見を有する人材が含まれている。
専門家案は、企業が自社製品のリスク評価や管理方針を検討する際の「共通の専門的知見」の形成促進を目指す。
策定は三段階で進められた。まず2024年6月に、JACAが培養肉や培養魚の安全性・品質管理に関する国際動向をまとめた英文レポートを発表。これを基に企業との意見交換を経て業界案を作成。さらに安全性・レギュラトリーサイエンスの有識者との協議を重ね、今回の専門家案へと発展させた。
専門家案では、初期の研究開発プロセスから安全性評価を組み込む体制の構築を通じて、「設計による安全性」の実現を図る環境づくりを重視している。
JACAは5月15日と19日、農林水産省フードテック官民協議会の細胞農業ワーキングチーム(WT)で内容を説明した。今後も開発企業や食品安全関係者などと広く意見交換を進め、共通の科学的知見の形成を進めていく方針だ。

出典:Wildtype
アメリカでは先日、培養サーモンの販売が開始され、昨年にはシンガポールで培養肉の小売進出が実現した。今年3月の培養脂肪のFDA認可、オーストラリア・ニュージーランドで迫る最終承認、申請企業の増加など各国で進展が見られる。
こうした中、イスラエルの培養ウナギ企業が日本へのパイロット工場設立を計画する動きもあるが、制度整備が遅れれば日本企業の市場参入や技術の社会実装が遅れる懸念がある。今後、消費者庁が示すガイドライン案と、JACAによる専門家案の接点が注目される。
※本記事は、JACAプレスリリースおよびFoovoへのメールをもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。
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アイキャッチ画像はFoovo(佐藤)撮影 Vowの培養ウズラ(2024年4月撮影)