細胞性食品とも呼ばれる培養肉は、動物を犠牲にすることなく動物肉を生産でき、環境負荷を軽減できる未来の食といわれる。この文脈で語られる培養肉とは、“すでにある動物肉”を異なる方法で作るというもの。
一方、現代にはない古代の肉、あまり食べられない動物肉にも、美味しさが眠っているのではないかと考えたのがオーストラリアのVowだ。
Vowは早期から、カンガルー、アルパカ、カメ、シマウマなど珍しい動物肉の開発に取り組んできた。その斬新な構想が具現化されたのは、昨年3月に発表された培養マンモスミートボールだろう。
そして今月、Vowはついに培養肉の販売認可をシンガポールで取得した。
フランス料理の高級食材でもあり、身近な食ではないウズラ肉を細胞培養で生成した。シンガポールのレストランMandala Club「MORI」で今月12日から27日まで、毎回12席限定でVowの培養ウズラ肉を使用した7つのメニューによるフルコース料理が「Forged Parfait」として提供される。
新しい食のカテゴリーを創出

出典:Vow Forged Parfait Brûlée
Vowは過去5年間、自然界からユニークな食品を作りだすため、研究開発に取り組んできた。すでに入手可能な肉の再現に細胞培養を使用するのではなく、風味と食感を組み合わせて、これまでに達成できなかった食品を創出することを目指した。
その成果が、同社最初の製品「Forged Parfait」だ。Vowはこれについて、「濃厚な旨味と重さを感じさせない、とろけるような食感を組み合わせた食肉イノベーションの新境地」だと表現する。
Vowの構想を数年前に知ったとき、食のグルメにとりわけ強い興味を持っているわけではない自分にとって、正直なところピンとこないものがあった。だが、身近ではないウズラ肉の培養肉が販売可能になり、それが実際に食べられるようになったことを想像したとき、それがどんな食体験をもたらすのか、興味がわいてきた。

培養ウズラが提供されるMORI 出典:Vow
Mandala Club「MORI」で提供されるメニューを考案したシェフの1人、Adem Kurcan氏は、「クリスマスの日の子供のようにワクワクし、純粋に食べる喜びを味わってほしいですし、この新しい食のカテゴリーがもたらす可能性について思いを巡らせてほしいです」と述べている。
既存のものとは異なる食を創出するVowのこだわりは、Kurcan氏が創出した、クリームブリュレを思わせる培養ウズラ肉を使用したForged Parfait Brûléeにも表れている。
培養肉の認可状況

出典:Vow
Vowはシンガポールで2番目に認可を取得、世界では4番目に認可を取得した培養肉企業となった。
Vowは2022年12月の時点で、シンガポール上市を見込む投稿をリンクトインでしていた(当該投稿は削除されている)。シンガポールでは培養肉を含む新規食品の認可に9-12ヵ月かかると当局が発表しており、Vowは承認まで12ヵ月ほど要したのではないかと思われる。
現在、培養肉で販売認可を取得している企業、一部の申請済み企業をまとめると次のようになる。

Foovo作成 赤い点線枠は承認待ちの企業(一部)、青い点線枠は手続きを開始している企業
これまでにGOOD Meat(イート・ジャストの培養肉部門)、Upside Foods、Aleph Farmsが販売認可を取得しているが、GOOD Meat、Upside Foodsは現在、販売はしていない。Aleph Farmsは発売をまだ実現していないため、現時点で培養肉を販売している企業はVowだけということになる。
アメリカ、シンガポールでは上図には記載のない複数の企業が申請を行っていると考えられ、今年はシンガポール、米国での他社の認可取得、オセアニアや韓国などでも承認される企業がでてくることが予想される。
さまざまな「未知」を体験できる培養肉をベースとしたフルコース料理は、現在、こちらのサイトで予約ができる。
鶏肉や牛肉の再現ではなく、美味しさを追求した「全く新しい味と食感の組み合わせ」となるVowの「Forged Parfait」にシンガポールの人々はどのような感想を抱くだろうか。
参考記事
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アイキャッチ画像の出典:Vow