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欧州議会、代替肉の「ステーキ/バーガー」表示制限案で交渉方針を採択|「農家の立場強化」か「過剰介入」か、その影響を考察

Foovo(佐藤)撮影/2024年10月・オランダ

欧州議会は今月8日、代替肉製品の表示に「ステーキ」や「バーガー」など肉に関連する用語の使用を禁止する新たな規制について、加盟国と協議する交渉方針を採択した

これは食品サプライチェーンにおける農家の立場を強化することを目的としたもので、議会案には、プラントベース食品細胞性食品など代替肉に関する肉関連用語の表示規制が含まれている。

該当する修正案113Amendment 113)は賛成355票、反対247票、棄権30票で可決された。本規制全体に関する交渉方針は賛成532、反対78、棄権25で採択されている。

GFI Europeによれば、最終的な規則は欧州委員会、欧州議会、欧州理事会による交渉を経て、年内に確定される見通しとなる

修正案113では、「肉」を「動物の可食部分血液を含む)」と定義し、「ステーキ」「ソーセージ」「バーガー」などの名称は肉を含む製品に限定し、細胞性食品を除外することを明記。結果として、植物由来・細胞由来のいずれも「ステーキ」や「バーガー」といった用語が使用不可となる方向だ。

この名称制限の背景に、消費者が植物性/細胞性性食品などを動物性と誤解して購入するリスクを減らす“誤認防止”の狙いがあるのは明らかだ。ただし、後半で述べるように、既に「Vegan」表示や棚分けが定着している店舗環境において、どこまで効果が発揮されるかは疑問が残る。

修正案113には例として、「ステーキ(Steak)」「エスカロープ(Escalope)」「ソーセージ(Sausage)」「バーガー(Burger)」「ハンバーガー(Hamburger)」「卵黄(Egg yolk)」「卵白(Egg white)」が列挙され、これらの名称を代替食製品で使用することを禁じる内容となっている。卵由来表現も保護対象となるほか、鶏肉の部位名の使用も禁止されている。

出典:Amendment 113

EUでは2017年の司法判決で、一部の例外を除き、植物由来食品に「ミルク」「クリーム」「チーズ」「ヨーグルト」などの用語の使用を禁止することが結論付けられた

また、EU司法裁判所CJEU)は昨年10月、加盟国レベルの一般的禁止を退けた。EU食品情報規則(1169/2011)の完全調和のもとでは、EU側が法的名称(legal name)を採用しない限り、加盟国の一般・抽象的な禁止は許されないと示した

この判断を踏まえ、今回の議会案はEUレベルで規則改正に向けた交渉方針を採択したという流れである。

GFI Europeによれば、現在、欧州委員会と議会の双方で二つの規制案が並行して進んでおり、委員会案では共通市場機構規則CMO規則)の定期改正の一環として、「牛肉」「鶏肉」「ベーコン」など29種の名称を制限する計画を進めている。承認されると2028年施行の見込みとなる。

GFI Europeはこれらの提案について「全く不必要なもので、消費者とEU経済に損害を与えるもの」だとし、「気候変動の深刻な影響から世界貿易の不安定性まで、欧州の食料システムが多くの課題に直面している中で、政策立案者がこの問題にこれほど注力しているのは馬鹿げたことのように思える」と批判している

「農家の立場強化」か「過剰介入」か、その影響を考察

Foovo(佐藤)撮影/2024年8月・フィンランド

修正案が最終確定され、可決された場合、欧州で代替肉製品を展開している企業には大きな影響が及ぶとみられる。製品パッケージの変更だけでなく、広告表現公式サイトEC上の製品説明など多方面で表記の修正対応が必要になるだろう。その結果、追加コストや売上減少など経営面への影響も懸念される。

欧州市場への新規参入を目指す企業は、使用可能な用語について当局に事前確認が必要になるだろう。

現時点の修正案で列挙される禁止用語例は「ステーキ」「ソーセージ」「バーガー」であり、企業は「カツレツ」「パティ」「ロール」などの用語を代替として検討するかもしれない。

しかし、規制の目的が「アグリフードのサプライチェーンにおける力関係の均衡回復」にあることから、今後の協議や企業側からの問い合わせを経て、当初は「可」とされていた用語が後に「不可」になるなど、制限が広がる展開も想定される。

Foovo(佐藤)撮影/2024年10月・オランダ

実際に施行されれば、企業側には多大な負担が生じる一方で、消費者行動への影響は限定的にとどまる可能性がある。結果として、「農家の立場強化」という当局の目的にはつながらず、市場混乱という負の影響の方が大きくなると筆者はみている

というのも、筆者が昨年、欧州のスーパーマーケットで観察したところ、植物性であれ菌類由来であれ、店頭の代替肉企業はすでに一定のポジションを確立している印象を受けたからだ。プライスタグには「Vegan」などの表記や色分けで視認しやすくなっており、代替食品は動物性製品とは別の棚で販売されていた。

フィンランド・ヘルシンキの大型スーパーでは、特定の代替肉ブランドに特化した棚もあったほどである(下記写真)。

Foovo(佐藤)撮影/2024年8月・フィンランド

そのため、ハンバーグなどの名称が制限されたとしても、消費者の購買行動に大きな影響を与えるとは考えにくい。

一部の現地スーパーを見た印象からは、ブランド認知や陳列状況、表示から、消費者が「植物性ソーセージ」を動物性と誤解する状況が想定しにくい。今後新たに導入される植物性製品についても、陳列場所やラベルで区別されると考えられ、誤解が生じる可能性は低いだろう。

なお、修正案113の賛成派は、近年、一部の欧州小売で代替肉が畜肉の近くに置かれる状況での誤購入を懸念している可能性がある。

しかしその場合も、製品上の「ベジタリアン」「ヴィーガン」「植物性」といった表示によって、消費者は識別できると考えられる。さらに、EU消費者を対象に実施したBEUCの調査(2019年)では、肉関連用語の使用は「ベジタリアン/ヴィーガン表示」を前提に容認する回答が多数派で、全面禁止の支持は少数にとどまっている(PDF p36/Figure22)。

Foovo(佐藤)撮影/2024年10月・オランダ

そのため、今回の規制案は実務上の手続きやラベル修正といった本質的でない手間や負担を増やす一方で、本来の目的にどれほど寄与するかは不透明であり、疑問が残る規則案である。

 

※本記事は、プレスリリースをもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。

 

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アイキャッチ画像はFoovo(佐藤)撮影/2024年10月・オランダ

 

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