このニュースのポイント
●シンガポールのShiok Meatsが培養ロブスター試作品を発表
●エビ・ロブスターの次は培養カニを開発予定
●2020年までに現行価格1/140のコストダウンを目指す
●2022年までの商品化が目標
●販路はBtoB、シンガポール市場からアジア太平洋へ
シンガポールの培養肉スタートアップShiok Meatsが世界初となる培養ロブスターの試作品を発表した。
Shiok Meatsが開催したプライベートな試食イベントで披露されたのは、培養ロブスターを使ったガスパチョ(冷製スープ)とテリーヌ。いずれもShiok Meatsが細胞を増殖して生産した培養ロブスターの肉を使っている。
今回発表された培養ロブスターは、同社が培養エビの開発に用いたものと同じ技術で作られている。ロブスターから採取した細胞を、バイオリアクターで数週間培養すると得られる。特許出願中の技術を用いると、これまでの4倍の速さで甲殻類を生産できるという。
ロブスターはサイズ、形状、味の面でエビよりも複雑だ。
Shiok Meatsによると、細胞由来のエビの生産にかかる時間は現在6週間、ロブスターの場合はエビよりも数週間長くかかる。
同社は今後2、3ヶ月で細胞からカニの試作品を作る予定であることを明かしている。
現在、エビとロブスターの試作品は開発フェーズにあり、販売されていない。商品化するには、シンガポールの規制当局Singapore Food Agency(SFA)から培養水産物の販売承認を得る必要がある。
同社は商品化のゴールを2022年に設定しており、同じく2022年までにシンガポールのセノコに生産工場を建設する予定。FoodNavigatorによると、工場が建設され、稼働を開始すれば、販売承認を得られるようになる。
Shiok Meatsは9月のシリーズAラウンドで1260万ドルの資金を調達しており、資金の一部を工場建設にあてる予定だ。
2020年末までのコストダウンが目標
最大の課題はコストだ。
Shiok Meatsが2019年4月に最初に発表した培養エビの価格は、しゅうまい8個で4000ドル(約42万円)~5000ドル(約52万円)だった。同年12月には1キロ7000ドル(約73万円)までコストダウンしたものの、これはしゅうまい1個あたり300ドル(約3万円)に相当し、依然として高い。
同社は今年(2020年)年末までに、価格を1キロ50ドル(約5200円)に下げたいと考えている。現在の価格の1/140だ。
ShiokはレストランなどのBtoBで培養エビ・ロブスターを提供する予定。まずシンガポールで発売してから、アジア太平洋を狙う。
加熱する細胞農業レース
家畜・水産いずれの分野でも培養肉はまだ商品化されていない。しかし、培養肉スタートアップは次々と登場しており、投資動向もその流れを後押ししている。
主なプレーヤーが今年調達した資金額(公開されているもののみ)は総額68億円以上となる。内訳は次のとおり。
●モサミート、9月に約58億円を調達
●メンフィスミーツ、1月に約1億6千万円を調達
●Shiokと共同で培養エビを開発するインテグリカルチャー、5月に8億円を調達
●Biotech Foods、8月に約2億3千万円を調達
●BlueNalu、4月に約2000万円を調達
培養肉に取り組むプレーヤーは商品化までに15年ほどかかる覚悟でおり、コスト・量産化の課題はあるものの、環境的・倫理的・道徳的な面で畜産にはない価値がある。
80年以上前にウインストン・チャーチルが語ったように、「胸肉や手羽先を食べるために鶏を丸ごと育てるなんてバカなことはやめて、それぞれの部位をふさわしい培地で別々に培養するようになる」世界はすぐそこまで来ている。
「すべての変化は、気がつかないほどゆっくりと進行するだろう」と予言したチャーチルの言葉通り、Shiok Meatsが開発する培養エビはコストダウンに向かっている。
コストダウンに成功すれば、研究室で作られた肉を食べることはますます現実のものとなるだろう。
参考記事
Shiok Meats unveils world’s first cell-based lobster, outlines manufacturing and collaboration plans
Shiok Meats Unveils Prototype for Cell-Based Lobster
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アイキャッチ画像の出典:Shiok Meats