先月開催された第21回日本再生医療学会総会では初の試みとして、「培養肉開発の現状と展望~再生医療との共創~」というテーマで培養肉のシンポジウムが開催された。
自身も培養肉開発に従事する東京女子医科大学の清水達也教授は、「数年前に総会会長の務めをいただいてから、培養肉のシンポジウムをやりたいと思っていた。その夢がかなった。このようなシンポジウムをやることで、再生医療学会のみなさんに培養肉を知ってもらえる。共創という言葉のとおり、双方の技術が交流することで双方が発展することを期待して企画した」と述べた。
本シンポジウムでは再生医療・組織工学の研究に携わってきた研究者が一堂に会し、培養肉開発に関連する技術や現状、課題について紹介した。
脂肪・筋肉の量をデザインできる高付加価値培養肉
順天堂大学医学部の赤澤智宏教授は、培養初期の段階で増殖能の高いウシ組織幹細胞を選定し、筋肉成分・脂肪成分を兼ねそろえた肉芽を生成させる技術を発表した。
赤澤教授によると、「培養肉は肉をバラバラにして培養していくものだが、構成している要素となる細胞の増え方は培養によって増え方が異なる。例えば脂肪細胞は、最終分化を終えているので増殖効果がなく、長期間培養すると、赤身の肉しかできないことになる」。
脂肪細胞を別にとってきて培養する手法もあるが、順天堂大学では、組織幹細胞を分離することで、「オルガノド・スフェロイド」という小さな肉の単位の作製に取り組んでいる。
組織幹細胞の分離にはフローサイトメトリーを使用する。
細胞の採取で問題となるのは、細胞から組織幹細胞を分離するうえで組織幹細胞を認識する抗体がないことだ。ヒト、マウス、ラットなどに対する抗体はあるが、牛の分子を認識する抗体はまだ少ない。
そこで、ヒト、マウス、ラットの細胞表面マーカーを246種類用意し、これらが牛の細胞表面を認識するかスクリーニングした。結果、3抗体だけがコロニーを形成することが確認された。
特に、Ha2/5(CD29細胞:細胞表面にCD29という抗原を持っている細胞)のコロニー形成能が高いことがわかった。2×10³の細胞を播種したプレートと比べて、Ha2/5陽性細胞を播種したプレートでは細胞の増え方が100倍高かったという。
Ha2/5陽性細胞を骨格筋培地で培養すると筋細胞が認められ、脂肪分化培地で培養すると脂肪細胞が認められたことから、「筋肉や脂肪に分化する能力を持っていると考えられる」という。
Ha2/5陽性細胞を培養すると24時間で自己凝集する。できたスフェロイドを筋分化誘導後に培地で脂肪分化させると、筋肉成分と脂肪成分を含んだ状態、つまり「サシ」を持った肉芽が形成された。
最終産物のイメージは早期実用化のために、新しいドリンク、ハンバーガー、ソーセージを考えている。脂肪、糖、タンパク質の量をカスタマイズできるため、子供や高齢者、肥満者、アスリートなど、パーソナライズ化された食の提供を目指している。
実験で用いるフローサイトメーターを産業でも使えるのか、という疑問について赤澤教授は「細胞全部を撒いたとき2個しかできないものが、抗体でエンリッチすると200個のコロニーができる。1枚のプレートでたくさんの細胞を得られるのが純化したもの。純化しなければ100倍のプレートを用意しないとならない」と指摘し、「培養初期の段階で幹細胞を純化することで、コストと時間を大幅に節約できる」と述べた。
藻類抽出液を活用した栄養価の高い培養肉生産
東京女子医科大学の原口裕次特任准教授は、微生物藻類栄養素を使用したサステイナブルな培養液について発表した。
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アイキャッチ画像の出典:再生医療学会