廃棄パンを原材料にクラフトビールを作る試みは、シンガポール、イギリス、日本でも始まっている。
そして香港にも、大量に廃棄されるパンを使ってクラフトビールづくりに挑戦する企業が誕生した。
創業メンバー4名はなんと大学生。
大学生らが創業したスタートアップBreerのパンビールは、フードロス問題の軽減、ビール醸造コスト削減に寄与するもので、今月、正式にリリースされる予定だ。
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香港の廃棄パンは1日1692トン
香港では毎日3600トンの食品が廃棄されている。これは2階建てバス250台に相当する量だ。
パンだけを見ると、香港の大手ベーカリーショップやスーパーから出される廃棄パンは、毎日1692トンにものぼる。
これは、体重60㎏の人間2万8200人分に相当する。
ある時、香港科技大学に通うAnushka Purohit、Naman Tekriwal、Deevansh Gupta、Suyash Mohanの4人は、パン屋のスタッフが店内に残ったすべての食パンをゴミ箱に入れているのを目撃した。
この光景を見て食品をアップサイクルするアイディアを思いつい4人は、廃棄されるパンを原材料とするクラフトビールを作る会社Breerを創設した。
ビールの醸造工程
通常のビールの醸造ではまず、大麦を発芽させて麦芽をつくる。この工程を製麦という。
次に、麦芽を細かく粉砕する。細かくすることで、デンプンが糖に分解されやすくなる。
細かくした麦芽に水を加え、ろ過したら、ビールに香りや苦みをつけるホップを加える。
次に、酵母を加えて発酵させる工程に移る。7~8日ほど発酵させると、麦汁の糖分のほとんどがアルコールと炭酸ガスに分解される。
これを数十日間、じっくりと熟成させれば、わたしたちがよく知っているビールができあがる。
Breerが作るビールも同じ製造方法で、パンを乾燥させ、細かくしたものに水を浸透させてマッシュ状にする。
その後、煮沸してホップを加え、発酵・醸造すればアップサイクルによるビールが完成する。
廃棄パンにはビールの原材料となる大麦、小麦、ライ麦などの穀粒がたっぷり含まれるので、廃棄パンを使うと、ビールの醸造で必要とされる大麦麦芽や酵母の1/3以上を代替できるという。
原材料となるパンは地元のパン屋や小売店からもらっている。
最初の商品はラガービールとペールエールの2種類
Breerは最初の商品としてラガー、ペールエールの2種類を発売予定で、10月に500Lをバッチ生産している。
今月の正式リリースに先立ち、地元のバーやお店に1本20香港ドル(約260円)で販売した。
同社はピザハットとのスペシャルコラボで(未食)ピザを原料にしたビールも作っている。
Breerによると、1年以内に醸造コストを75000香港ドル(約100万円)節減できるという。
Breerはビール以外の製品開発も考えている。
ビールの醸造で発生する使用済みの穀粒を使って、パンにアップサイクルするなどして廃棄物をさらに減らしたいと考えている。
目指すのは、完全に循環したサプライチェーンの構築だ。
同社が実施した調査では、香港の若年層の83%が廃棄パンを原料にしたビールを試してみたいという結果が得られたという。
世界で広がる「パン」ビール
廃棄パンからクラフトビールを作る試みは新しいものではない。
シンガポールのCrust Groupも地元のパン屋で廃棄されるパンを使ってビールを作っている。
イギリスのToast Aleは、廃棄パンから作ったビールの売上をすべて寄付している。2019年には食パン85万1388枚を再利用してビールを醸造した。このパンを積み上げると、エベレスト山脈の約1.2倍もの高さになるという。
国内では、六本木にあるベーカリー・ブリコラージュの看板商品ブリコラージュ・ブレッドの美味しさを捨てることなく生かしたいという願いから、絶品パンを原料とした「bread beer」が誕生した。長野県のクラフトビール醸造所AJBブルワリーで製造されている。
クラフトビール醸造所・金沢ブルワリーも、廃棄パンからビールを作っている。2021年春以降の販売を目指しており、売上の一部は生活が苦しい人たちへ食品を支給するフードバンクに寄付する。
参考記事
Breer: Hong Kong Uni Students Turn Food Waste Into Craft Beer