精密発酵で持続可能な脂肪を開発する企業が増えている。精密発酵により食品、脂肪、他のタンパク質を開発する企業は世界で80社以上確認されている。そのなかで近年、企業数が増加しているのが脂肪のカテゴリだ。
ドイツのスタートアップ企業Zayt Bioscienceは、果物の廃棄物を活用した精密発酵により環境に優しい脂肪、油脂を開発している。Green Queenの報道によると、同社は2024年末までに精密発酵バター「Zayt Butter」の注文処理を開始するとしている。
「Zayt Butter」は室温で固体で、食品と化粧品に使用できる。スキンケア・ヘルスケア分野だけでなく、すでに代替タンパク質の分野でも「初期のクライアントと試験を実施」しているという。
果物の廃棄物を活用して精密発酵脂肪を開発
牛肉、大豆、パーム油は熱帯森林破壊の原因の約60%を占めており、大豆・パーム油による割合は18%といわれている。
赤道付近でしか生育しないパーム油の使用が拡大した場合、世界で絶滅の危機に瀕している哺乳類の半分以上、絶滅の危機に瀕している鳥類の3分の2が影響を受ける可能性があると指摘されている。
微生物を生産工場として特定成分を生成する精密発酵は、パーム油など植物油脂の生産で指摘される環境負荷を軽減できる技術として期待されている。
持続可能な油脂開発を目指し、これまでにClean Food Group、Zero Acre Farms、C16 biosciences、ÄIO、Cultivated Biosciences、Nourish Ingredientsなどが確認されている。土地利用・水使用を低減し、施設を設置すれば理論的に場所を選ばずに生産を可能にする精密発酵だが、インフラ面で供給と需要のギャップがあるのが現状だ。
Zayt Bioscienceはインフラの課題を解決するため、プラグアンドプレイ(すぐに使用できるという意味)のバイオリアクターを提供するドイツ企業Kyndaと提携した。
Kyndaは「当社のプラグアンドプレイのバイオリアクターは、資本コストと運営コストを大幅に削減します。これは、Zayt(と当社と協業する他の企業)が拡張しやすいシステムを活用し、代替タンパク質を社内生産できることを意味します」と述べている。
Kyndaの公式サイトでは菌糸体を使用するバイオマス発酵向けのソリューションと記載があるが、精密発酵にも対応していると思われる。
二社は当面は生産のスケール化と最適化に取り組むが、Zayt独自のバイオプロセスに向けたカスタムメイドなソリューション開発に向けても取り組んでいるという。Zaytの共同創業者兼CEO(最高経営責任者)Amr Aswad氏はこのソリューションについて、既存のCMOでは対応できないものだとGreen Queenに述べている。
Zayt BioscienceはこれまでにFoodLabsからプレシード資金を調達している。来年までに「Zayt Butter」の生産を拡大して注文に対応するために現在、シード資金を調達している。FoodLabsはKyndaにも出資している。
Zayt Bioscienceが使用する「果物の廃棄物」が具体的に何を指すかは不明だが、廃棄物を活用したバター開発の事例として、エストニア企業ÄIOもあげられる。同社は農業や木材産業で生じるおがくずを活用して代替油脂、バターを開発しており、今年2月に約1億4000万円を調達した。
精密発酵以外では、スウェーデンのMycorenaが昨年7月、マイコプロテイン由来バターのプロトタイプを発表した。
参考記事
Zayt Bioscience: Turning Fruit Waste into Precision Fermentation Butter
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アイキャッチ画像の出典:Zayt Bioscience