代替乳製品・代替卵

細胞を培養して代替母乳を開発するTurtleTreeが約6億3千万円を調達

 

このニュースのポイント

 

●代替母乳を開発するシンガポールTurtleTreeが約6億3千万円を調達

BtoBによるライセンス提供で乳幼児調整乳市場を狙う

乳児用調整乳市場は2026年までに1030億ドルを超える規模に

世界TOP5に入る育児用ミルク企業とライセンス契約の予定

2022年までに市場投入を目指す

 

 

細胞から母乳を作るTurtleTree(タートルツリー)が、プレAラウンドで620万ドル(約6億3千万円)の資金調達に成功した。

TurtleTreeはシンガポール発の代替母乳の開発に取り組むスタートアップ。

世界で初めて、細胞を培養することで人間の母乳そっくりな代替母乳を開発している。

はじまりは牛乳の代替ミルク

2019年に誕生したTurtleTreeの始まりは、代替母乳ではなく、牛を使わずに細胞から作る培養牛乳だった

チーズ作りが趣味だったFengru Linは、ある時、シンガポールには牛が少ないことに気づく。

インドネシア、タイと旅する中で、牛乳は集約農業により大量のホルモン剤と抗生物質が牛に注入されて成り立っている事実を目の当たりにした。

当時Googleに勤務していたLinは、共同創業者となるMax Ryeと出会う。

出典:TurtleTree

ある時、Ryeから培養肉に取り組むスタートアップの話を聞いたLinは代替ミルクを開発することを思いつく。

こうしてTurtleTreeは、牛の細胞から培養する牛乳の開発に取り組み始めたが、乳製品メーカーのひとことで方向性を転換することになる。

「もし母乳を作れるなら、乳児用調製乳の産業を変えられますよ」

2人は、確かな需要があり、牛乳よりも莫大な金銭が投入される乳児用調製乳に転換することを決心した。

高齢者やがん患者もターゲットに

TurtleTreeは今回の資金を使い、母乳に存在する生理的に活性のあるタンパク質と複合糖質の研究・生産を加速させたいとしている。

これらの成分は腸や脳の健康にも役立つとされ、乳児だけでなく高齢者向けの栄養源としても応用できるという。

「高齢者の消化器系には乳児のような問題があり、早期研究は母乳に含まれる成分が一部のがんの増殖を妨害する可能性を示唆しています」

とLinが語るとおり、同社は代替母乳の潜在ユーザーとして、高齢者やがん患者も想定している。

戦略の異なるもう1つの代替母乳プレーヤー

TurtleTreeは代替母乳を作る企業として、世界初かつナンバー1を自負するが、代替母乳を開発するスタートアップはもう1社いる。

アメリカ発のBiomilqだ。

ビル・ゲイツのバックアップを受けるBiomilqは、2人の女性が創業したスタートアップ。実験室で乳腺上皮細胞を培養して母乳を開発している。

出典:Biomilq

今年2月に開発した代替母乳には、本物の母乳に含まれるカゼインとラクトースの産生を認めた。6月にはビル・ゲイツの投資ファンドから350万ドルの出資を受けている

細胞から代替母乳を作り出す手法は同じだが、TurtleTreeとBiomilqの戦略はターゲット市場・販路において全く異なる

Biomilqは欧米をターゲットとしているが、TurtleTreeはアジア市場を狙っている

Biomilqは、妊娠中に採取した細胞から個別化された代替母乳を生産し、完成したら個人に届けるサービスを想定している。Biomilqの販路がDtoCや小売であるのに対し、TurtleTreeは乳製品の大手企業とライセンス契約を結んで、技術の販売を考えている。

社名は明らかにされていないが、育児用ミルクで世界TOP5に入るメーカーとライセンス契約を締結する予定でいるという。

リリースの時期についても、2社は異なる。Biomilqは具体的な販売時期を明かしていないが、TurtleTreeは2022年までに市場投入を目指している。

TurtleTreeのタンパク質と糖質が規制当局の承認を得られれば、既存の乳児用調製乳に追加できるようになる。そうすれば、代替母乳により近くなる。

TurtleTreeは許認可の時期について、「早ければ2021年に」と予測している。

この予測は当たるかもしれない。

TurtleTreeはシンガポールにあるからだ。シンガポールは世界に先駆けて、イート・ジャストの培養肉販売を承認した。同社の培養肉は今月19日にレストランで販売される。

乳児用調整乳市場は2026年には1030億ドル規模に

母乳が出なくて悩む女性は多い。母乳育児ができないことによる自責の念、周囲からのプレッシャー。しかも、女性は出産するまで、自分の身体が母乳を生産してくれるかどうか、予測できない。

代替母乳には、女性のこうした深刻な悩みを解決するほか、牛に頼らなくてすむため、環境に与えるインパクトも大きい。

乳児用調整乳市場は2018年には45億ドル、2026年までに1030億ドルを超えると予測されている。市販化までには法規制のハードルがあるものの、代替母乳に取り組む企業に集まる投資熱を見るかぎり、来年は大きなブレイクスルーを期待できそうだ。

今回のラウンドには、Green Monday VenturesEat Beyond GlobalKBW VenturesVerso Capitalが参加した。

 

参考記事

‘I want to give my child the best’: the race to grow human breast milk in a lab

TurtleTree Labs Closes Oversubscribed US$6.2M Pre-A Round For Lab-Grown Breast Milk

TurtleTree Labs Raises $6.2M for its Cell-Cultured Milk

 

関連記事

 

アイキャッチ画像の出典:TurtleTree

 

関連記事

  1. Quornの親会社Marlow Foods、マイコプロテインを他…
  2. Shiruが「見た目も挙動も動物油脂のような」植物性代替脂肪「O…
  3. ひよこ豆由来のタンパク質を開発するInnovoProが約3億円を…
  4. Remilkがカナダで精密発酵乳タンパク質の認可を取得
  5. MycorenaとRevo Foodsが3Dプリント用マイコプロ…
  6. 【8/24】注目のフードテックベンチャー・ネクストミーツ社佐々木…
  7. Yali Bioが精密発酵による代替乳脂肪を使用したアイスクリー…
  8. 【2024年度版】精密発酵レポート予約注文開始のお知らせ

おすすめ記事

Amazonで圧倒的な高評価を誇る家庭用カクテルロボットのBartesianが約21億円を調達

家庭用カクテルロボットを開発するBartesianがシリーズAラウンドで2000…

デンマークのMATR Foods、欧州投資銀行から約31億円の融資で菌類由来代替肉の工場建設へ

菌糸体を活用した代替肉を開発するデンマークのMATR Foodsは今月、欧州投資…

ERGO Bioscience、植物細胞培養によりミオグロビン・カゼインを開発

アルゼンチンとアメリカに拠点を置くバイオテック企業ERGO Bioscience…

UMAMI UNITEDの植物性代替卵「UMAMI EGG」が都内レストランに登場

シンガポール、日本に拠点を構えるUMAMI UNITEDが開発した植物性の代替卵…

代替肉のRedefine Meatがイスラエルで5つの新商品を発売、年内の欧州進出を目指す

3Dプリンターを活用するイスラエルの代替肉企業Redefine Meat(リディ…

【現地レポ】Perfect Dayの精密発酵乳タンパク質を使用したミルクを試食@シンガポール|精密発酵ミルクの現在地を確認

精密発酵技術で生成された食品がアメリカ、シンガポールなどで販売されている。…

精密発酵レポート・予約注文開始のお知らせ

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

Foovo Deepのご案内

精密発酵レポート・予約注文開始のお知らせ

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

Foovoの記事作成方針に関しまして

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

最新記事

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,760円(11/21 14:06時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(11/20 23:44時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(11/21 03:26時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(11/20 20:01時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(11/21 12:17時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(11/20 23:02時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP