細胞を培養して水産物を開発するBlueNaluが6000万ドル(約62億円)を調達した。
細胞農業による代替魚の開発では史上最大の資金調達となる。
今回調達した資金で、培養水産物の商用化に向けたパイロット工場を完成し、今年後半にはアメリカのレストランなど飲食店でテスト販売する予定。
プレスリリースによると、このパイロット工場は培養魚業界では世界初となる。
自社パイロット工場の完成、オープンへ
BlueNaluは、持続可能で、安全かつおいしい水産物を消費者に届けることを理念に、さまざまな水産物を細胞ベースで開発している。
同社はカリフォルニアを拠点とし、2017年に設立された。
ブリ、本マグロ、シイラ、レッドスナッパー(フエダイ科の大形魚)などさまざまな水産物を細胞培養により開発している。
2019年には培養ブリのデモンストレーションを実施した。
2020年6月にはそれまでの生産スペースの6倍となる38000平方フィート(約3530㎡)のリース契約を締結した。
同社は今回の資金で、予定していた約40000平方フィートのパイロット生産工場をオープンし、培養水産物の生産を開始する予定。
このパイロット工場では、最初のテスト販売に向けた水産物を生産するとし、1週間に200~500ポンドの代替水産物の生産が可能となる。BlueNaluのキッチンやデモスペースも設けられる予定。
BlueNaluは今回の資金調達ニュースとあわせて、FDAへの承認申請を完了することも明らかにしている。
今年、同社の培養水産物はアメリカの飲食店などでテスト販売される。今年後半にまずシイラをリリース、次いで本マグロをリリースするとしている。
減少の一途をたどる海洋水産物
FAOの「世界漁業・養殖業白書(2018)」によると、2015年の水産資源は「漁獲量の生産量に余裕がある状態」の割合が7%しかないのに対し、「上限近くまで漁獲され、これ以上の生産量増大の余地がない状態」が59.9%、「過剰漁獲」が33.1%を占める。
つまり、水産資源の約90%が完全に利用されているか、枯渇しているか、または乱獲されている。
持続可能な状態にある海洋水産資源(グラフの青色部分)は、1974年の90%から2015年には66.9%まで落ちており、減少の一途をたどっている。
このように水産資源は減少しているのに対し、水産物供給のニーズは高まっており、このままではいずれ水産物が獲れなくなる可能性が指摘されている。
また、マイクロプラスチックと呼ばれる粒子の残留も問題とされる。
マイクロプラスチックは、表面にPCBなど有害物質を吸着させるので、マイクロプラスチックを誤飲した魚の体内には有害物質が蓄積される。これらの生物を人間が食べると、人間の健康にも影響を与える。
こうした持続不可能な生産システムに歯止めをかけるために、世界各国でスタートアップ企業が動き始めている。
BlueNaluは細胞農業によって持続不可能な現在の水産業界を変え、細胞農業をリードする主導的プレーヤーとなることを目指している。
培養水産物で史上最大の資金調達
BlueNaluは2020年初頭にシリーズAラウンドで2000万ドルを調達、2018年にはシードラウンドで450万ドルを調達していた。
今回のラウンドは、コンバーティブル・ノート(Convertible Note)となる。コンバーティブル・ノートとは、将来、株式に転換する約束が付されたもので、その本質的な性質は負債となる。
Rage Capitalがラウンドを主導し、ほかにAgronomics、Lewis & Clark AgriFood、McWin、KBW Ventures、Siddhi Capitalが参加した。
BlueNaluの5年計画
BlueNalu は2019年のプレスリリースで、今回発表した生産施設を上回る、さらに大きな計画を発表している。
商用化に向けた5年計画では、5年以内に年間1800万ポンドの生産規模となる、15万平方フィート(約14000㎡)の施設を構えることを発表。その手始めとして、研究開発・小規模のパイロット試験からスタートし、テスト販売を実施するとしていた。
2019年は第1フェーズにあるとし、2、3年で商品のテスト販売を実施、5年以内に最初の生産施設をオープンしたいとしていた。
今回の発表は、この計画が着々と進行している表れといえる。
BlueNalu は主要マーケットにおいてジョイントベンチャーのパートナーシップを結んでいる。これらのパートナーは、規制面のサポート、製品のコストダウン、グローバルなマーケティング戦略などで協業する。
これまでにBlueNalu が公表している戦略的投資パートナーには、オランダのNutreco、韓国のPulmuone、日本の住友商事、アメリカのグリフィスフーズとRich Products Corporationの5社がいる。
2019年のプレスリリースでは、注力するエリアとして、北アメリカ、アジア、ヨーロッパをあげており、世界中の数十箇所に施設を設けることに言及している。今年後半にアメリカで市販化されるが、その後はアジア・ヨーロッパへの進出が視野にあると予想される。
日本の住友商事がBlueNaluに出資していることから、日本へ培養魚が入ってくることも期待される。
研究開発で細胞から水産物を作るのは重要な第一歩だが、量産とコストダウンができるかはまた別問題だ。BlueNaluは今回の巨額の資金調達を受けて、量産化の実現に向けてさらに大きく動き出したことになる。
参考記事
BlueNalu Secures $60 Million in Convertible Note Financing
BlueNalu Announces Plans for Expansion, Including New Pilot Plant Operation
BlueNalu Secures $60M for Production of Cell-Based Seafood
BlueNalu Announces New, Expanded Facility to Bring its Cell-Based Seafood to Test Markets
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アイキャッチ画像の出典:BlueNalu