細胞農業企業の多くが牛肉や鶏肉、チーズなどの製造に力を注ぐ中、高級食材であるキャビアの製造にも注目が集まっている。
オランダのスタートアップ企業Geneus Biotechが、細胞農業によるキャビア製造に関してヴァーヘニンゲン大学と新たな研究提携を行った。
チョウザメの保護やサプライチェーンの透明性確保が目的
キャビアはチョウザメの卵を加工してつくられる。しかし近年、生息地の環境悪化やキャビアに加工するための乱獲などが原因で、チョウザメは絶滅の危機に瀕している。
27種のチョウザメ全てが国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに掲載されており、うち17種は絶滅危惧種に指定。4種はすでに絶滅したとされている。
今回の研究開発では、最高級品キャビア「ベルーガ」の原料となるオオチョウザメを絶滅から救うため、細胞培養によるベルーガの製造に取り組む。
高級珍味であるキャビアは需要が供給をはるかに上回っており、偽造品も多く流通している。細胞培養によるキャビア製造は、サプライチェーンの透明性を高めることにもつながるという。
チョウザメから採取した細胞を体外で培養
Geneus Biotechが開発しているのは、「Magiccaviar」と名付けられた魚卵製品だ。
Magiccaviarの製造では、オオチョウザメとその近縁種であるコチョウザメから卵母細胞を採取し、体外で培養する。絶滅の危機に瀕していないコチョウザメを用いて培養手法を開発することで、オオチョウザメに対する悪影響を最小限に抑えることができた。
コチョウザメとオオチョウザメは系統的に近いため、得られた手法をオオチョウザメに適用するのは比較的容易だという。
採取した卵母細胞の培養は、Geneus Biotechが保有する3Dバイオプリンティング技術で作製した卵巣類似環境で行われる。卵巣の環境を再現することで、卵母細胞が適切に成熟する。
Geneus Biotechの取締役であるMuriel Vernon博士は、「Magiccaviarは、動物を捕獲、飼育、加工することなく水産物を生産するための実行可能なソリューションを提供する、養殖魚及び水産物の革命に加わるものだ」と語っている。
同社はキャビア製造に関する独自プロセスの特許も出願中だという。
細胞農業による毛皮の生産にも取り組むGeneus Biotech
Geneus Biotechは、Magiccaviarの他にも細胞農業を活用したサステナブルな事業を行っている。
同社は最近、毛皮の生産を目的とした初のバイオマテリアル製品「Furoid」を発表した。Furoidは、培養ステーキや培養チキンの製造と同様のプロセスで製造される。
同社は細胞を成長因子及びバイオマテリアルと組み合わせることで、本物の動物毛皮と同様の自然な組織特性の培養に成功。この培養物を3Dプリントすれば、耐久性や保温性などを備えた100%クルエルティフリー(=動物を傷つけていない)な毛皮製品をつくることができるという。
Geneus Biotechは同じ技術を使用したウールの製造も検討している。
広がる高級シーフード開発
キャビアやフォアグラといった高級シーフードの開発に取り組むスタートアップは、他にもある。
ドイツのDeli-Caviarは植物由来のキャビアを開発し、2019年から販売を開始している。また、フランスのスタートアップであるGourmeyは、アヒル細胞の培養によるフォアグラの製造に取り組んでいる。
参考記事
Dutch Scientists Are Making Cell-Based Caviar A Reality
The Startups Making Ethical Alternatives to Controversial Delicacies
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アイキャッチ画像の出典:Magiccaviar / Geneus Biotech