細胞農業の進歩により培養肉がスーパーの棚に並ぶ日も近いのかもしれない。
Micro Meatは2021年の夏にY Combinatorの出資を受けて設立されたメキシコ初の細胞農業システムを開発するスタートアップである。
目下の課題は培養食肉の量産を可能とするシステムの構築であり、細胞農業の社会実装のための課題を解決して量産化の実現を目指している。
共同創業者でありCEOのAnne-Sophie Mertgen博士は組織工学の専門知識を持つバイオメディカルのエンジニアであり、メキシコのモンテレイ工科大学でのポスドクとしての研究が新型コロナの影響で中断されるなかMicro Meatを立ち上げた。
新しく共同創業者となったVincent Pribble氏は、ULA、Blue OriginやNASAに在籍したこともあり宇宙工学分野をバックグラウンドとしている。
培養足場材の開発にフォーカス
Micro Meatの専門家チームは将来の培養肉産業の中核となるための価値を産みだすことを目指しており、培養肉の量産化に必要な新しい足場の開発に重点を置いている。
哺乳動物の細胞は造血細胞などを除くとその大部分は細胞外マトリックス(ECM)に接着していないと増殖することはできない。細胞培養ではこの体内のECMの替わりとなる素材が必要で、バイオ医薬品の分野では100~400μmサイズのマイクロキャリアが用いられる場合が多い。
マイクロキャリアを培養肉に用いる場合、可食素材を用いることにより培養肉との分離操作を不要とすることが可能だが、この場合にも培養密度には限界があるとされている。
足場はマイクロキャリアよりも大きな素材で、細胞接着性のほかに、培養肉製品の3次元構造化の支持体となるだけでなく、将来的には可食素材を用いて食肉製品の持つ繊維感など食味の向上に寄与することも求められている。
足場の分野では他にもエストニアのGelatexがナノファイバーによる足場構造の安価な構築技術を確立し、米国のMatrix F.T.(旧Matrix Meats)もナノファイバー技術を用いて他の培養肉スタートアップの用途に合わせた足場を開発・提供している。
Micro Meatの現状と今後
Micro Meatは、この1年ほどの間にthe Microという名称の量産可能な足場材をデザインし、試作から試験まで行っている。この足場はバイオリアクターを繰り返し使用したときに生じる有害物質から細胞を保護する機能も持つ。
同社は今年、培養ポークの試作品生産に成功している。
Micro Meatは現在、培養肉を消費者に提供する技術の検証のための生産施設を建設している。完成すれば現在の200倍の生産能力となる月産20kgの生産が可能となるだろう。培養肉の品質向上のために嗜好調査を実施することも計画しており、投資家や食品各社のトップはこれに参加して未来の食肉を試すこともできるだろう。
培養肉業界への投資額が急増
2020年12月19日の土曜日、シンポールの会員制クラブ1880でイート・ジャスト傘下のGOOD Meatの培養肉が史上初めて消費者に販売された。培養肉の販売を認可したのはこれまでシンガポールのみだが、他の国も近く認可するものと考えられている。
2020年に培養肉のスタートアップは3億6000万ドル(約470億円)の投資を受けたが、これは2019年の6倍、これまでの累計調達総額の72%に相当する。2021年には前年比3倍以上となる約14億ドル(約1800億円)を調達した。
多くの資金調達を受けた各社が実生産と販売を進めるうえで、それぞれの培養肉に適した足場を開発することは生産コストの低減や最終製品の品質向上の鍵となる要因の一つであり、足場開発も更に加速していくものと考えられる。
参考記事
Micro Meat, Mexico’s First Cultivated Meat Company, is Ready to Scale Up Production
Here’s Y Combinator’s answer to cultivated meat’s scaling problem