アメリカ、カリフォルニアを拠点とするイート・ジャストは、シンガポールで新しい生産工場を正式に着工した。シンガポールのパイオニア地域に位置する新工場は広さ2.7ヘクタールと、東京ドーム0.5個分の広さとなる。
建設費用は1億2000万ドル(約145億円)で、イート・ジャストとフードテックに特化した投資会社Proterra Investment Partners Asiaが負担した。新工場は2年以内の完成が見込まれる。
北米、ドイツに続く大規模工場がシンガポールに
工場が完成すると、植物性タンパク質の施設としてはシンガポール最大規模となり、年産量は数千トン規模になると予想される。イート・ジャストは北米とドイツにも大規模工場を有しており、3つ目の工場となる。
同社CEO兼共同創業者のジョシュ・テトリック氏は、工場の設置場所としてシンガポールを選定した理由について「食糧安全保障、気候変動、個人の健康いずれの理由でも、数十年後には、家族を養うために動物性タンパク質を作る革新的なアプローチが必要になる。シンガポールはこれらの新しいアプローチを取り込み、加速させるリーダーとしての確固たる地位を築いている」とコメントしている。
17日に開催された起工式には、シンガポールの貿易産業大臣であるLow Yen Ling氏をはじめ、政府関係者、投資家が招かれ、イート・ジャストの代替卵製品JUST Eggを試食した。
Yen Ling氏は同社の代替卵について「本物の卵と見分けがつかない」と感想を述べた。さらに、新たな工場建設が「現地生産を大きく推進させ、シンガポールの備蓄と多様な輸入戦略を補完するものになる」とコメントし、シンガポールの食料自給率を向上させるという国家戦略において、代替タンパク質の重要性を強調した。
国をあげてフードテックに取り組むシンガポール
シンガポールは国土面積約728.6平方キロの島に、人口約570万が住む過密な都市国家で、農地は国土の1%にも満たない。国内には2.4ヘクタール規模の野菜農園をはじめ、約80の農園があるが、食料の約9割を輸入に依存しているのが現状となる。
シンガポールは2019年3月、2030年までに食料自給率を30%まで引き上げる目標を発表した。その中で、限られた土地で効率的にタンパク質を生産できる代替タンパク質に特に力をいれている。
細胞培養による培養肉の販売を最初に認可した国がシンガポールだったことも、こうした事情が背景にある。
2021年には農業生産を促進するために6000万ドル(約72億円)を投じたほか、政府系投資会社テマセクは、持続可能な食品・代替タンパク質のスケールアップと商品化に特化したプラットフォームAsia Sustainable Foods Platformを設立した。このプラットフォームはフードテック企業に研究開発の助言や、パイロット設備の提供、投資支援などを提供するものとなる。
こうした一連の取り組みは、シンガポールが国内の食料供給源として持続可能な代替タンパク質を重視していることの表れといえる。
培養肉市場参入への布石を打つ
イート・ジャストは2020年12月に最初に培養肉を販売してから、培養肉料理のデリバリーなど先進的な取り組みを実施してきた。
今月には、シンガポールで70年以上の歴史のある屋台(ホーカー)Loo’s Hainanese Curry Riceとの提携を発表。これは1946年に始まった屋台で、父親から事業を引き継いだLoo Kia Chee氏が40年以上にわたって経営している。
Loo’s Hainanese Curry Riceの屋台では、イート・ジャストの培養肉GOOD Meatの鶏肉を使ったカレーが約4シンガポールドル(約360円)で提供される。
昨年12月にはシェフのJosé Andrés氏が同社培養肉部門GOOD Meatの取締役に就任した。Andrés氏の参画は、イート・ジャストの培養肉戦略に大きな意味を持つ。
同氏はアメリカで30以上のレストランを運営しており、アメリカで認可が得られ次第、自身のレストランの1つで培養肉を提供することを約束している。
イート・ジャストはカタールに工場建設もする計画を進めており、シンガポール以外での市場参入準備を着実に進めている。
参考記事
Eat Just Breaks Ground On Largest-Ever Plant-Protein Factory in Singapore
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アイキャッチ画像の出典:イート・ジャスト