テルアビブを拠点とする精密発酵企業Remilkは、アメリカでGRAS自己認証を取得したことを発表した。
精密発酵による乳タンパク質の使用では、2020年にアメリカで最初に認可を取得したパーフェクトデイに続き2社目となる。GRAS自己認証の取得は、Remilkが同社の乳タンパク質をアイスクリーム、ヨーグルト、クリームチーズなどの代替乳製品に使用し、販売できることを意味する。
今回の発表は、1月の1億2000万ドル(当時約139億円)の資金調達、4月のデンマークへの工場建設に続くニュースとなる。
イスラエル企業Remilk、アメリカで認可を取得
Remilkの乳タンパク質は牛由来のタンパク質と生物学的に同等だが、遺伝子組換え微生物がタンパク質の「作り手」となる。Remilkのタンパク質を使用して製造された乳製品は、本物と「味と機能では区別できない」ものとなっている。
微生物を「作り手」とする精密発酵により、本物と同等の乳製品を最初に開発したのがパーフェクトデイであり、アメリカを中心にすでに市販化されている。
アメリカでのGRAS認証は、Remilkのタンパク質が食品や飲料品で消費するうえで安全だとみなされたこととなる。つまり、アイスクリーム、クリームチーズなど消費者向けのアニマルフリーな乳製品の製造に同社タンパク質を使用できるようになる。
認可取得によりRemilkは、アメリカの消費財(CPG)メーカーへ販売できるようになり、年内には販売を開始する予定だという。
増加する精密発酵乳製品の需要
Euromonitor Internationalは、ラボで生まれた乳製品が手頃な価格になるにつれ、10年後には非動物由来の乳製品が最も人気のある選択肢になる可能性に言及している。
Rethink Xの予想によると、2025年には精密発酵タンパク質と乳タンパク質の生産コストが逆転し、この差は拡大を続け、2030年には牛由来の乳タンパク質の生産コストは精密発酵タンパク質の約2-3倍になるという(上図)。さらに2030年にはアメリカの乳製品需要の9割が精密発酵由来になると予想している(下図)。
この背景にはさまざまな技術の融合により精密発酵のコストが低下していくことのほか、人々の意識の変化も関係している。YouGovがアメリカに住む18歳以上の約1400名を対象とした調査によると、37%が牛乳を使った製品を避けており、その半数は健康とウェルネス、33%は環境問題を理由に挙げている。
パーフェクトデイが実施したライフサイクルアセスメント(LCA)によると、精密発酵由来の乳タンパク質は牛乳と比べ、温室効果ガス排出量を85-97%、水消費量を96-99%、エネルギー消費量を最大60%削減できる。
タンパク質危機と気候危機へのソリューションが求められる現在、少ない資源でタンパク質生産を可能とする精密発酵食品の市場シェアが拡大していくことは間違いないだろう。
RemilkでCEOを務めるAviv Wolff氏は「アメリカでの認可取得は、私たちのチームにとって大きなマイルストーンであり、アニマルフリーな本物の乳製品を求める乳業メーカーや消費者にとって素晴らしいニュースです。私たちはRemilkの製品を他の国の人々にも提供できるように、世界中の規制当局に働きかけています」とコメントし、他国でも上市を目指していく考えだ。
バイオモノづくりに関連した国内の動き
現時点では、パーフェクトデイの乳タンパク質を使った製品はアメリカ、香港、シンガポールで販売されている。今後は多くの海外精密発酵スタートアップがアメリカ市場へ参入し、他国へ展開していく動きが加速するだろう。
日本はどうか?日本では精密発酵により食品を開発するスタートアップは確認されていない(ユーグレナは今年、研究に着手していることを発表)。開発は海外よりも大幅に遅れているものの、NEDO主導のプロジェクトが動いている。
長瀬産業が日立グループと連携して精密発酵による希少アミノ酸「エルゴチオネイン」の生産プロセス実用化に向けた共同開発を開始したり、Green Earth InstituteがNEDOプロジェクト「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」の一環として、来年には3000Lの発酵槽を新設するバイオファウンドリの稼働を先月より一部開始するなど、バイオものづくりを前進させる取り組みが行われている。
参考記事
Remilk Secures Self-Affirmed GRAS for Non-Animal, Real Dairy Protein
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アイキャッチ画像の出典:Remilk