代替プロテイン

細胞シート工学で培養肉を開発するEvolved Meatsが約2.7億円を調達

 

細胞シート工学を活用した培養肉開発を進めるカナダ企業Evolved Meats(旧称CaroMeats)は先月、シードラウンドで200万ドル(約2億7000万円)を調達した。

調達した資金で、商品開発と生産プロセスのスケールアップを図る。

今回のラウンドはカナダの大手食品企業であるMaple Leaf Foodsが主導し、Big Idea VenturesGarage CapitalSaltagen Ventures、ウォータールー大学のVelocity Fundなどが参加した。

細胞シート工学を活用した培養肉開発

世界の食肉需要は2050年までに倍増すると予想されている。世界人口の増加に伴う供給の課題に加え、食肉生産で排出される温室効果ガスは排出量全体の約15%を占めるなど、畜産に伴う環境負荷の解決が望まれている。

Evolved Meatsも培養肉他社と同様、こうした2つの課題解決を目指して、動物の体の外で細胞から培養肉を開発・生産しようとしている。

同社は仮出願している組織工学技術を用いた独自のアプローチを採用している。

これはCEOのAlireza Shahin氏がマクマスター大学で博士号を取得したときに開発した技術だ。Shahin氏は、自身が開発した「斬新な」細胞シート工学により、あらゆる種のあらゆる切り身肉を再現できる、機能的な組織を作成できることを見出した。

これにより、Evolved Meatsは畜産肉と同じ繊維質の食感、霜降り、味、栄養を備えた食肉を細胞から直接再現できるようになったという。また、この過程で足場やつなぎ材などの材料を別途に使うことはないという。

出典:WO2022000086A1

特許明細書によるとShashin氏は、表面加工や酵素処理、または電場や磁場などの外部刺激を介さず、pHの異なる培地に変換することで細胞層を剥離させ、自己組織化させて細胞シートにし、これらの細胞シートを積層して厚い立体組織を形成していると考えられる。

東京女子医科大学の清水教授も細胞シート工学で培養肉を作る研究開発に着手しており、これまでにハムのような培養肉作製も実現している。さらに細胞シートと藻類シートを交互に積層させ、酸素、CO2、アンモニアといった代謝物をリサイクルすることで、光だけで食肉を作る研究開発を進めているという

つなぎ材を不要とする手法では、日本のダイバースファームが100%細胞から構成される培養肉の開発を進めている。

同社は共同創業者の大野氏が開発した鋳型を組み合わせるネットモールド法を採用。細胞同士がくっつこうとする性質を利用して、コラーゲンや増粘剤などのつなぎ材を使わずに細胞を立体的に直接結合させた培養肉を開発している。

カナダの培養肉関連企業

出典:Future Fields

Big Idea VenturesのAndrew D. Ive氏は「Evolved Meatsは培養肉が直面するスケールアップという重要な課題解決に取り組んでいます。足場の必要性を取り除くことで、Evolved Meatsの技術で培養肉の生産プロセスにおける障壁を1つだけでなく複数なくすことができ、加工されていない切り身肉を可能にします」とコメントしている。

カナダにはAppleton MeatsSeafutureなどの培養肉企業が確認されているが、現在主だった動きは確認されていない。Future Fieldsはショウジョウバエを使って培養肉用の成長因子を開発している。

今回の資金調達で、Evolved Meatsは具体的なスケジュールを発表していないが、カナダ、アメリカ、アジアで事業展開するMaple Leaf Foodsからの支援を受け、商品開発を加速していくだろう。

Maple Leaf Foodsは今年3月、米MycoTechnologyの8500万ドルの大型資金調達にも参加しており、「地球上で最も持続可能なタンパク質会社」というビジョン実現に向けた取り組みを強化している。

 

参考記事

Cultivated Meat Startup Evolved Meats Raises $2 Million in Seed Round, Led by Funders Maple Leaf Foods and Big Idea Ventures

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:McMaster University researchers use animal cells to cultivate meat in a lab

 

関連記事

  1. バイオ3Dプリンターで植物性代替サーモンを開発するLegenda…
  2. Remilkの精密発酵乳タンパク質がシンガポール当局の認可を取得…
  3. ドイツ大手小売業者REWE、同社初のビーガン専門スーパーを開設
  4. 多様な植物から葉タンパク質を抽出するThe Leaf Prote…
  5. ビヨンドミートが代替鶏肉ビヨンドチキンテンダーを北米で発売
  6. Motif FoodWorks、精密発酵による代替タンパク質開発…
  7. Revo Foodsが3Dプリンターで作製した代替サーモンを初発…
  8. ビールの醸造で発生する廃棄大麦をアップサイクルするReGrain…

おすすめ記事

ユニリーバ、精密発酵アイスクリームをBreyersブランドで発売|パーフェクトデイのホエイを使用

食品・日用品大手のユニリーバが精密発酵に参入した。今月22日、ユニリーバ…

オランダ企業The Protein Brewery、マイコプロテインFermoteinの認可をシンガポールで取得

オランダのフードテック企業The Protein Breweryは先月、発酵由来…

「麹菌で日本発のマイコプロテインブランドをつくる」|筑波大学・萩原大祐准教授の挑戦

萩原大祐准教授(左)と麹菌マイコプロテインによる試作品筑波大学生命環境系の萩…

イスラエル・イノベーション庁が精密発酵の施設設立へ

イスラエル・イノベーション庁(IIA)は、精密発酵で代替タンパク質を開発するため…

微細藻類からタンパク質を開発するBrevelがイスラエルに商用工場を開設

微細藻類由来のタンパク質を開発するイスラエルのBrevelが、イスラエル南部に2…

ビーガンハチミツのMeliBio創業者に聞く|精密発酵によるハチミツの開発とターゲット市場

「地球上からミツバチが消えたら、人間は4年しか生きられない」というアインシュタイ…

精密発酵レポート・予約注文開始のお知らせ

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

Foovo Deepのご案内

精密発酵レポート・予約注文開始のお知らせ

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

Foovoの記事作成方針に関しまして

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

最新記事

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,760円(11/21 14:06時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(11/20 23:44時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(11/21 03:26時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(11/20 20:01時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(11/21 12:17時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(11/20 23:02時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP