ミシュラン星付きシェフと再生医療の研究者が立ち上げた異色の培養肉企業ダイバースファーム。
同社は、人工皮膚や人工軟骨などを開発する再生医療ベンチャー・ティシューバイネット社を創業した大野次郎氏と、大阪でミシュランの星を8年連続獲得する日本料理店「雲鶴」のオーナーシェフ島村雅晴氏が出会い、2020年に登場した。
「テクノロジーで地球と暮らしを守る」を理念に、培養肉という新しいソリューションで、食料危機、環境問題に対応しつつ、既存畜産業との共存を目指している。
10月26日、ダイバースファーム社のセミナーに代表の大野氏、共同創業者の島村氏、主任研究員の岡野徳壽氏が登壇した。
セミナーでは、同社の技術概要、培養肉が求められる背景、必要と想定される安全性試験、今後の市場参入について詳細が語られた(セミナー動画は本記事の最後より視聴可能)。
培養肉の背景にある食糧危機、水不足、温暖化、穀物高騰
30年後には世界人口は約100億人に達すると予想される。人口が増えれば、当然のことながら必要となる食糧も増える。2050年には2010年比で、1.8倍の畜産物が必要になる試算となる。
共同創業者・副社長の島村氏は、「鶏肉を1Kg生産するには4.5Kgの穀物、1Kgの牛ステーキには穀物が20Kg必要」になり、肉1Kgの生産の裏側には、大量の穀物、穀物を生産するための土地・水があると指摘。
2010年から2050年までの農地面積の分布変化を示した上図からは、水不足、温暖化により新たな農地の確保が難しい現状が読み取れる。
アフリカは温暖化による砂漠化で農地が減少、南米では森林伐採による農地開拓で農地が増加。インドでは水不足を解消するための灌漑用水が原因となる紛争など、農地拡大が温暖化、紛争の原因となっていると島村氏は指摘する。
世界的な食肉需要の増加に伴う穀物価格の高騰、十分量の穀物確保が難しくなる状況は、穀物飼料の大部分を輸入に依存する日本、特に畜産農家にとって死活問題となる。
既存畜産業と共存する培養肉
こうした畜産業に付随する問題を解決する1つのソリューションとして、培養肉の生産効率性の高さに注目が集まっている。
培養肉は既存の畜産産業と比較して、土地利用を99%、温室効果ガスの排出を96%、淡水の使用量を96%削減できると試算されている。
島村氏は「培養肉は既存の畜産肉のライバルではなく、共存関係にある。肉の需要量増加を培養肉が受け皿になることで、肉不足や過度の競争を軽減できる。これが飼料価格の安定につながる」とし、既存の畜産肉を食べ続けるためにも、培養肉が必要になると述べた。