イスラエルの培養肉企業スーパーミート(SuperMeat)は今月、アニマルフリー培地を用いた培養肉生産で、1ポンド(約450g)あたり11.79ドル(約1820円)というコストを達成したことを発表した。
同社はこの成果について、「このコストはアメリカの高級な家禽製品に匹敵するものであり、培養肉業界にとって画期的な進歩です」と述べている。
これまでの鶏肉生産では42日間かかるところ、スーパーミートの細胞培養プロセスではわずか2日間で鶏1羽分に相当する3ポンド(約1.3kg)の肉を生産可能であり、土地利用を最大80%削減できるという。
生産プロセスの詳細を発表
スーパーミートは今回のブレイクスルーに伴い、詳細な生産プロセスを公表した。
レポートによると、まず非孵化受精卵から得た胚性幹細胞(ES細胞)を使用して、2Lのバイオリアクターで初期培養を行い、次に10Lのバイオリアクターで細胞を増殖させる。このプロセスで、細胞密度が9日間で8000万個/mLに達する。
その後、連続プロセスへ移行し、日ごとに30-50%の培養物を筋肉用および脂肪用の各10Lの分化バイオリアクターに移して分化を進める。
脂肪は24時間以内、筋肉は4日以内に分化が完了し、9日間の増殖期間と45日間の生産期間を経て、7-8ロットで合計33kgのバイオマスが収穫できるという。このバイオマスは、筋肉85%、脂肪15%の100%培養肉で構成される。
コスト削減の成功の鍵の一つとなったのが、同社が開発した動物由来成分を含まない培地だ。従来のウシ胎児血清(FBS)やアルブミンを排除し、1リットルあたり0.5ドル以下のコストで提供されるこの培地は、乳酸やアンモニアといった副産物の生成を最小限に抑えたものとなる。
同社によると、33kgのバイオマス生産には945Lの無血清培地が使用される。つまり、33kgの生産に必要な培地コストは472ドル(約73,000円)以下ということになる。
商業規模での展望
スーパーミートは、10Lの生産規模で得られたデータをもとに、5つの生産ラインを備えた25,000Lの生産規模に拡張した場合の実現性についても評価している。
技術経済分析(TEA)によると、減価償却前の売上原価は1ポンド(約450g)あたり約11.8ドル(約1820円)と算出されており、年間生産量は670万ポンド(約3000トン)に達する見込みだ。これは約270万羽の鶏に相当する。
商用規模では、まず5000Lのバイオリアクターで細胞を増殖させ、その後25,000Lの拡張バイオリアクターへ移行。細胞密度が約8,000万個/mLに達した段階で、45日間の連続プロセスを経て、最終的に25,000Lの分化バイオリアクターで脂肪と筋肉に分化させる計画だ。
味の素、大手小売などとも提携
2015年設立のスーパーミートは、イスラエルに培養肉試食に特化したレストランThe Chickenを2020年にオープンした。
工場に隣接した同レストランでは、店内から培養肉の製造プロセスが見えるようになっており、新しい技術で生産される食肉に対して透明性を高める狙いがある。植物肉ではPlantedなどが同様の取り組みをしているが(Plantedの場合は有料)、培養肉企業で最初にこうした取り組みを行ったのはスーパーミートとなる。
2022年3月には味の素がスーパーミートに出資し、培地やその原料開発に重点を置いて、培養肉の商用化を支援することを発表した。同年7月にはスイスの小売大手Migrosと基本合意書(MOU)を締結している。
その後、アメリカへの培養肉工場の建設計画が発表したものの、詳細は発表されていない。今回の成果を受けて、25,000L規模での生産施設建設を進めていくものと思われる。
参考記事
SuperMeat Achieves Breakthrough in Cost Parity for Cultivated Chicken Production
SuperMeat’s 100% Cultivated Chicken Hits Price Parity with Premium Options at $11.79/lb
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アイキャッチ画像の出典:SuperMeat