インテグリカルチャーは、アヒル肝臓由来細胞を培養した試作品の開発に成功したと発表した。
先月、同社の研究拠点である湘南ヘルスイノベーションパークで、約30名の開発関係者が参加する官能評価会が開催され、レストラン・加工食品向けに7つの試作品が発表された。
アヒル由来の細胞培養食品の試作品

出典:インテグリカルチャー
今回の官能評価会は、インテグリカルチャーが「クラフトエッセン」と呼ぶアヒル由来の細胞培養食品の市場性を検証することを目的に実施された。
同社は昨年夏、アヒル細胞を用いた細胞培養の生産ラインを整備し、食品用に試験的な生産を開始。
今回発表された試作品は、レストランメニュー4品と加工食品3品の計7品で、細胞培養食品の旨みを感じてもらえるように設計された。具体的には、レストランメニューでは原料全体の約30%、加工食品では20%~80%の割合で細胞培養食品を使用している。

出典:インテグリカルチャー
試作品の一例として、加工食品では植物油脂、豆乳、卵白などに細胞培養食品を3割混合したフォアグラ風の製品が、レストランメニューでは細胞培養食品に豆乳クリームを混ぜた柑橘系デザートが発表された。
試作品開発では、同社のCulNetコンソーシアムに参画する三栄源エフ・エフ・アイが開発した足場が使用された。実際に試食した人々からは、レストランメニューについて「培養食品とはわからない仕上がり」との評価や、加工食品については「動物性の旨みを特に感じた」との感想が寄せられた。
インテグリカルチャーは今回の結果を踏まえ、商品開発や市場性の検討を進めていく。
「クラフトエッセン協議会」設立

出典:インテグリカルチャー
官能評価会開催に合わせ、先月18日に「クラフトエッセン協議会」が設立された。
同協議会は細胞農業協会、細胞農業研究機構(JACA)、バイオインダストリー協会などの関係団体やアカデミアと協力し、アヒル由来の細胞培養食品の上市と社会受容の促進を目的としている。
会長に就任した東京女子医科大学・清水達也教授は、「日本でもようやく細胞培養食品の開発が進み、実際の製品を並べながら一般の方々に説明できる、社会受容を検討するフェーズに来ました」と述べ、社会実装に向けて認識を深めることが重要であると強調した。
インテグリカルチャーの取り組み

CTO/COOの川島一公氏 出典:インテグリカルチャー
インテグリカルチャーは、細胞培養の社会実装を目指し、2015年に設立された日本初の細胞農業企業。
同社は培養肉の社会実装を進めるため、各分野に強みを持つ事業会社との共同技術開発を行う「CulNetコンソーシアム」を運営し、低コストで血清様成分を作出するCulNet Systemを使用した培養肉製造の受託研究開発サービス「CulNetパイプライン」を展開している。
昨年6月には細胞農業に関心のあるすべての人が活用・マネタイズできる場として、会員制のB2Bマーケットプレイス「勝手場(Ocatté Base)」を開始した。
昨年11月には、住友理工と共同開発した細胞農業スターターキット(培養バッグ+培養資材)を「勝手場」の最初の製品として発売。このキットを使用すれば、細胞と血清があれば実験室レベルの施設で培養肉を作ることが可能となる。
さらに、今年2月にはみずほ銀行から1億円の特別当座貸越の融資を受けた。特別当座貸越は、審査のハードルが高く、信用リスクが高い取引とされるため、みずほ銀行がインテグリカルチャーの将来性を評価した結果と言える。
これについて同社創業者兼CEO(最高経営責任者)の羽生雄毅氏は、「エクイティファイナンスではなく、通常の銀行ローンである点が重要です。つまり、私たちの収益実績と将来の見通しが銀行の評価をクリアしたことを意味します。これは、細胞農業を産業として正常化するための非常に重要なステップです」とコメントしている。
参考記事(プレスリリース)
【協議会のイベント】クラフトエッセン協議会が主催するアヒル肝臓由来の細胞培養食品に関する官能評価会
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アイキャッチ画像の出典:インテグリカルチャー