培養肉を開発する日本のインテグリカルチャーは今月、アヒル肝臓由来細胞を培養した培養フォアグラの開発に成功したことを発表した。この培養フォアグラは、食品成分のみを使用した完全にアニマルフリーなものとなる。
この発表にあわせ、都内のホテルでインテグリカルチャーの培養フォアグラを使用した料理の試食が実施された。
国内で培養肉の試食が実施されたのは、東京大学の竹内昌治教授と日清食品ホールディングスが昨年3月に実施した試食に続き2例目となる。
Table of Contents
インテグリカルチャー、培養フォアグラの開発に成功
培養肉は、動物を飼育したり屠殺したりすることなく、動物細胞を直接増殖させてできる未来の肉として注目されている。培養肉には、温室効果ガス排出量を削減し、水資源の消費を抑制できる効果が期待されており、持続可能なタンパク質源として、国内外で100社を超えるスタートアップが設立されている。
インテグリカルチャーの培養フォアグラは、動物由来の血清や成長因子を使うことなく、食品成分のみを使用して作製されたものとなる。
海外で培養肉が発表された2013年頃、細胞を増殖させる栄養成分として培地にウシ胎児血清(FBS)が使用されていたため、倫理的な問題とコスト高が指摘されていた。近年では、多くのスタートアップが生産プロセスからFBSの排除に取り組んでいる。
米Upside Foodsやオランダのモサミートがアニマルフリー培地を開発するなど、複数の成果が報告されている。
2023年中に大量生産へ
今回の成果は、インテグリカルチャーが独自に開発したCulNetシステムと、細胞農業の社会実装を目指すCulNetコンソーシアムの協力により実現したものとなる。
CulNetシステムは、体内で臓器と臓器が血管を通じて互いに相互作用する体内システムを体外で再現したもの。これを使用すると、システム内で成長因子を作りだすことができ、高価な成長因子を外部から投入する必要がなくなるため、生産コストの大幅な削減が可能となった。
CulNetコンソーシアムは、インテグリカルチャーが発起人として2021年に設立したもの。培地、培養、装置などの分野で高い技術を有する企業が課題解決に向けて協業し、細胞農業の社会実装を目指して、プラットフォームの構築を目指している。
これまでに10社以上が参画しており、直近ではニチレイフーズが今月、CulNetコンソーシアムに参画することを発表した。
インテグリカルチャーは2023年中の大量生産を目指している。
NHKの報道によると、同社の培養フォアグラの生産コストは現在、100グラムあたり3万円だが、3年後に300円程度までコスト削減を実現したいとしている。
岸田首相:培養肉は持続可能な食料供給の実現に重要
これまでに培養肉が販売された唯一の国はシンガポールだが、昨年、FDAが米Upside Foodsの培養鶏肉の安全性について「異議なし」のレターを発行するなど、2社目の認可取得に期待感が高まっている。
今月、岸田首相は衆院予算委員会で中山展宏議員の質疑に対し、「細胞性食品を含む食品分野の新しい技術を活用したフードテックは、世界の食料需要の増大に対応した持続可能な食料供給の実現などの観点から重要であると認識」していると述べた。
その上で、「農水省、厚労省、消費者庁などの関係省庁が連携して、オープンイノベーション・スタートアップの育成を促進するとともに、安全確保の取り組みや表示ルールの整備など新たな市場を作り出すための環境整備を進め、日本発のフードテックビジネスを育成する」と回答。
培養肉など細胞性食品に関する未整備のルール形成を進め、世界の食料問題の解決と日本経済の発展のため、細胞農業の産業育成に乗り出す考えを示した。
東京大学先端科学技術研究センターの井形彬氏、一般社団法人細胞農業研究機構・代表理事の吉富 愛望 アビガイル氏は、ルール形成の遅れは、他国の都合や国益が反映されたルールに追随せざるを得なくなる事態を招くと警笛を鳴らしてきた。
岸田首相の言及により、国内で培養肉など細胞農業の社会実装に向けたルール形成が加速することが期待される。
参考記事
インテグリカルチャー、独自の培養技術を用いて食品のみでつくった「食べられるアヒル肝臓由来細胞」の培養に成功
関連記事
アイキャッチ画像の出典:インテグリカルチャー