マイコプロテイン「Rhiza」を開発する米The Better Meat Coは、南米の大手食肉企業と、マイコプロテインの購入で意向表明書(LOI)を締結した。
Green queenの報道によると、南米の大手食肉企業(社名は非公開)が、ハイブリッド肉への使用を目的に、「Rhiza」を月間30トン購入する意向を示している。
今回のニュースが持つ意味

出典:The Better Meat Co.
LOI(意向表明書)とは「letter of intent」の略で、買い手が売り手に対し、製品を購入する意思があることを示す文書をいう。
通常、法的拘束力はないが、購入に向けた基本的な条件や意図などが盛り込まれている。本来、買収の文脈で使用されるが、スタートアップと企業間で、試験導入などを前提とした関係性の意思表示として使われることもある。
そのため、今回のLOI締結は、The Better Meat Coにとって現時点で購入が確定するものではないが、近い将来、十分なボリュームの原料供給の可能性を示すものとなる。食肉メーカーからの関心・需要の高さが可視化されたことで、さらなる投資を呼び込む上でも好材料のニュースとなる。
食肉メーカーからの購入意向
The Better Meat Coは、細胞農業をテーマにした著書「クリーンミート」で知られるPaul Shapiro氏が2018年に設立したアメリカのマイコプロテイン企業。
初期では植物タンパク質を開発していたが、その後、Neurospora crassaを使用したマイコプロテイン「Rhiza」の開発へとシフトした。
同社の初期パートナー企業Perdue Farmsは2019年、The Better Meat Co.の植物タンパク質を肉増量剤として使用したハイブリッド製品を販売。同製品は7,000箇所のスーパーで販売された。
一方、「Rhiza」は米プラントベースレストランBuddha Belly Burgerで提供されたり(下記)、イスラエル企業Oshiが代替サーモンに同成分を使用したりするなど、徐々に導入が進んでいる。

出典:The Better Meat Co.
The Better Meat Coは昨年7月にアメリカでGRAS認証、昨年10月にシンガポールで「Rhiza」の販売認可を取得した。Foovoの調査ではシンガポールのレストランでの「Rhiza」提供はまだ確認されておらず、今後、アメリカ以外でも展開を拡大していくと予想される。
The Better Meat Coは2021年、肉缶詰「スパム」で知られるHormel Foods(ホーメルフーズ)のVC部門199 Venturesと提携を締結した。その翌年にはカナダの大手プラントベース企業Maple Leaf Foodsと共同開発提携を締結した。
2022年9月にはカリフォルニアにあるリンクトイン本社で代替フォアグラを限定提供した。
The Better Meat Coのこれまでのパートナー企業は大きく、食肉メーカー(Perdue Farms、Hormel Foods)、プラントベース企業(Maple Leaf Foods、Oshi)に分類できる。
Shapiro氏は「食肉メーカーと協力することに最も重点を置いてきました」とGreen queenに述べており、大手食肉メーカーから新たに30トンの購入意向が示されたことは、The Better Meat Coが望む持続可能な食肉生産の実現に向けた重要な一歩となる。
バイデン大統領令の撤回がもたらすもの

出典:The Better Meat Co.
同社は2021年にカルフォルニア州サクラメントで月産数千ポンドの工場の稼働を開始した。Food Navigatorの報道によると、現在9,000リットルのバイオリアクターを使用している。
昨年10月にはバイデン政権下の大統領令14081号に基づき、アメリカ国防総省(DoD)から、スケールアップに向けて148万ドル(当時約2.1億円)の助成金を獲得することが発表された。
しかし先月14日、トランプ大統領によって大統領令14081号は撤回された。
大統領令の撤回はThe Better Meat Coなど微生物発酵企業にとって、アメリカ国内での展開の足かせとなり得るが、同時に、今回の南米企業からの購入意向のように、海外展開を促進する原動力になりうる。

出典:アグロルーデンス
マイコプロテインの分野では、The Better Meat Co以外にも大手企業が参入する動きが確認されている。
アメリカに次いでマイコプロテイン企業が多いドイツでは、昨年、Kyndaが大手家禽メーカーPHW Groupから出資を受け、2025年第2四半期にドイツで新施設の開設を予定している。
同じくドイツのInfinite Roots(旧称Mushlabs)は昨年末、韓国の大手食品メーカーPulmuoneと共同開発した代替肉製品を韓国で発売した。
国内でもアグロルーデンスが米と麹菌を使用したマイコプロテインの商用化に向けてオタフクソースらと提携しており、昨年10月には農水省から約10億円の補助金を受けることが発表された。
同社は米タンパク質と麹菌を固体培養した自社原料「Haccome」を「新しい」マイコプロテインと位置づけている。
参考記事
Ahead of $15M Fundraise, The Better Meat Co Secures Mycoprotein Deal with South American Meat Giant
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アイキャッチ画像の出典:The Better Meat Co