代替プロテイン

植物サーモンのNew School Foods、カナダでのレストラン展開を加速|IKEA支援と今後の展開を考察

 

植物サーモンを開発するカナダ企業New School Foodsが、Gordon Food ServiceおよびBondi Produceとカナダにおける全国的な流通契約を結び、レストラン向けの提供を拡大している。

公式サイトによると、現在、カナダのトロントモントリオールを中心とした13箇所のレストランやホテルで提供されており、今後27箇所への拡大予定されている

ジャガイモ由来の植物サーモン「NEW/SCHOOL SALMON」

出典:New School Foods

New School Foodsは「方向性凍結(Directional Freezing)」と呼ばれる技術を用いて、植物サーモンを開発。

多糖類を含むハイドロゲルを凍結し、整列した細長い氷結晶を形成させた後、植物タンパク質や脂質を含む溶液にこの凍結ハイドロゲルを所定の温度で浸潤させる。氷結晶が融解する過程で、タンパク質や脂質がハイドロゲル内部へ拡散する仕組みとなる。

同社の植物サーモン「NEW/SCHOOL SALMON」は、ジャガイモタンパク質海藻エキスDHA・EPA藻類油などを使用しており、サーモンと同量のオメガ3脂肪酸を含んでいる

昨年8月には、トロントに約2600㎡のパイロット工場を正式に開設した

2025年5月29日時点で13箇所で提供中。14箇所は「Coming soon」表示となっている。リアル情報は公式サイトで確認できる 出典:New School Foods

AgFunderの報道によれば、現在は手作業による少量生産を実施しているが、2026年には連続プロセスに切り替え、生産時間を従来の2日から数時間に短縮することを目指している。

New School Foodsの提供範囲は現時点でカナダに限られているものの、計27箇所のレストラン・ホテルなどへの導入が進んでおり、背景にはInter IKEAからの出資による支援も影響していると考えられる。

2024年に実施されたシードラウンドでは、Inter IKEAがNew School Foodsに出資した。Foovoの調査では、IKEAがプラントベース食品企業に出資するのはこれが初となる

創業者のChris Bryson氏 Foovo(佐藤)撮影 2023年11月シンガポールにて

IKEAはNew School Foodsの代替サーモンについて、「外観や味だけでなく、サーモンの筋肉構造を再現する革新的技術により、調理、冷凍、フレーク化も本物と同じようにできる点で他と一線を画している」と高く評価している

IKEAのイノベーション事業を統括するRobert Carleke氏は、「当社のようなグローバルな規模で事業展開する企業が植物由来のサーモンを販売すると決めれば、大きなインパクトを与えるでしょう」と述べている

また、IKEAは2025年までにレストランで提供する主菜の50%を植物由来にするという目標を掲げており、New School Foodsとの連携はこの目標達成にも寄与する可能性がある。

IKEAからの支援で今後想定される展開

出典:New School Foods

こうした動きや発言から、今後想定される展開を考えてみたい。

まず、IKEAが自社のメニューにNew School Foodsの植物サーモン導入を検討している可能性は十分に考えられる。

ただし、実現にはNew School Foodsの生産能力がIKEAの需要規模に対応可能であることが前提となる。同社の製造プロセスには冷凍設備が必要であり、次回の資金調達などで、IKEAが既存投資家として追加支援するというシナリオも考えられる。

New School Foodsが現在、レストランへの提供を拡大する段階にあることは、IKEAが掲げる「2025年までに主菜の50%を植物由来にする」という目標とも時期的に重なっており、方向性としても一致している。2025年中にIKEAのメニューに全面的に採用されるかは依然として不透明だが、一部店舗での試験提供が開始される可能性は十分に考えられる。

また、Gordon Food ServiceBondi Produceを通じて、カナダ国内のレストラン・ホテルにおける高価格帯での販売実績が積みあがれば、IKEAとのオフテイク契約やメニュー採用の確約へと発展する可能性も十分に想定されるだろう。

 

※本記事は、AgFunderの報道をもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:New School Foods

 

関連記事

  1. 米Plantible Foodsがウキクサ由来の植物性代替卵を発…
  2. 【2024年】培養魚企業レポート販売開始のお知らせ
  3. 「代替タンパク質大国」を目指すイスラエルの今をクローズアップ-2…
  4. 菌糸体から代替肉を作るAtlast Foodが約43億円を調達
  5. 米The EVERY Company、代替肉への精密発酵タンパク…
  6. 精密発酵で母乳タンパク質を開発するHelainaがシリーズAで約…
  7. ブラジル初の培養脂肪企業Cellva Ingredientsが約…
  8. 仏Bon Vivantが精密発酵ホエイでGRAS自己認証を取得|…

おすすめ記事

微生物で世界に挑戦|合成生物学の世界大会iGEM参加のため、東大チームが1000万円の寄付募集を目指す

本来持っていない機能を生物に加え、新たな機能を持つ生物を作り出す合成生物学は現在…

ネスレが精密発酵によるミルク「Cowabunga」の試験販売を開始

ネスレは今月、精密発酵企業パーフェクトデイの乳タンパク質を使用したミルク製品「C…

Oishii Farmが進める植物工場のパッケージ化|年内に国内イノベーションセンター設立へ【セミナーレポ】

2025年5月19日更新(Oishii社確認のもと、一部修正)アメリカ・ニューヨークから1時…

細胞培養で母乳を開発するTurtleTreeがラクトフェリン粉末を最初の商品とすることを発表

シンガポールを拠点とするTurtleTreeが、最初に商用化される商品がヒトラク…

韓国の培養肉企業CellMEATが約4億7千万円を調達、培養肉の量産とコストダウンを目指す

韓国の培養肉企業CellMEATがプレシリーズAで450万ドル(約4億7千万円)…

レタスを活用して乳タンパク質を開発するイスラエル企業Pigmentum

植物を使った代替乳製品や、微生物を活用した精密発酵による代替乳製品の開発が進むな…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

最新記事

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,707円(06/19 15:20時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(06/19 01:15時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(06/19 05:15時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(06/19 21:22時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(06/19 13:25時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
698円(06/19 00:28時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP