イギリス政府は先月、植物性タンパク質、培養肉、藻類、昆虫、発酵食品など代替タンパク質の商用化を加速するため、国立代替タンパク質イノベーションセンター(National Alternative Protein Innovation Centre;NAPIC)に1,500万ポンド(約28億円)を投じたことを発表した。
英国研究・イノベーション機構(UKRI)傘下のバイオテクノロジー・生物科学研究会議(BBSRC)とInnovate UKが、先月28日に同センターを設立した。
イギリス政府、代替タンパク質センターに約28億円を投入
NAPICは、植物性タンパク質や培養肉、藻類、昆虫、発酵食品といった様々な代替タンパク質のイノベーションを推進し、イギリスの代替タンパク質市場における国際的な地位向上を目指す。
この新たなセンターは、リーズ大学が主導し、ジェームズ・ハットン研究所、シェフィールド大学、インペリアル・カレッジ・ロンドンと共同で運営される。革新的な製品や原料の商品化を推進し、消費者がこれらの食品を食生活に取り入れる方法についても研究する。
すでに、イギリスおよび海外から100以上の中小企業、多国籍企業、学術機関、第三セクターがNAPICに参加している。これらの官民パートナーはNAPICに対して、2,300万ポンド(約43億円)の資金や支援を提供することを約束している。
NAPICは「生産」・「プロセス」・「品質」・「人」をテーマに、次の4つの柱に注力する。
- PRODUCE:最適な機能性、感覚特性、栄養価を持つ代替タンパク質の原料・製品の生産を支援。超加工食品に関する懸念に対応しながら、生産者の公正な移行を支援する。
- PROCESS:AIを活用し、培養肉や精密発酵技術の大規模生産を加速させる。
- PERFORM: 消費者が求める味、食感、栄養価を満たしつつ、安全性を確保する。
- PEOPLE:食生活に代替タンパク質を浸透させるための移行を導く。イギリスの農家や企業には、研修や新たなビジネスチャンスを提供する。
代替タンパク質エコシステムの発展を目指すイギリス
非営利シンクタンクのGood Food Institute Europe (GFI Europe)によると、今回の資金提供により、イギリス政府の代替タンパク質への総投資額は9,100万ポンド(約170億円)を超えた。
イギリス政府は近年、代替タンパク質への投資を強化している。
2023年1月には、持続可能な新規食品開発を支援するため、1,600万ポンド(当時約25億円)を投じることを発表した。昨年4月には、培養肉・精密発酵を対象とした細胞農業製造ハブ(CARMA)に1,200万ポンド(約22億円)を投じることを発表した。
また昨年12月には、培養肉・発酵産業を含むエコシステムの発展に必要な資金を提供する「工学的生物学の国家ビジョン(National Vision for Engineering Biology)」を発表。今後10年間で総額20億ポンド(約3800億円)を投資するとしている。
今年2月には、微生物食品を対象とした「微生物食品の工学生物学ハブ(Engineering Biology Hub for Microbial Foods;通称Microbial Food Hub)」に1,200万ポンド(約22億円)を投じることも発表した。
これら一連の投資は、イギリスの代替タンパク質産業エコシステムの強化に貢献している。
今年7月には、イギリスは世界で初めて培養ペットフードの製造販売を認めた。人間向けの培養肉はまだ認可されていないが、世界で最初に販売認可を取得した培養ペットフード企業Meatlyは、年内に最初のサンプル製品の販売を予定している。
イギリスでは、培養肉のIvy Farm、Uncommon、培養脂肪のHoxton Farms、カカオを使わないチョコレートのWin-Win (旧称WNWN)やNukoko、植物性チーズのThe Good Pulse Company、菌糸体ステーキ肉のAdamo Foods、マイコプロテインのENOUGH、代替パーム油のClean Food Group、精密発酵のBetter Dairyなどのフードテック企業が登場している。
参考記事
National alternative protein innovation centre launches
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アイキャッチ画像の出典:Uncommon