出典:Mosa Meat
農業・食品産業分野における資金提供、社会実装の支援を行う生研支援センター(BRAIN)は6月30日、2025年度「スタートアップ総合支援プログラム(SBIR支援)」の審査結果を公表した。全60件の応募から17件が採択され、そのうち培養肉に関連する課題が3件、精密発酵に関する課題が1件含まれた。
培養肉関連で採択されたのは下記の3件。
- 北里大学「培養ウナギ肉の実現に向けた細胞培養技術の高度化」
- 東京大学「畜産未利用資源の活用による低コスト細胞大量培養手法の開発」
- 岐阜大学「細胞性食品生産コストを大幅に低減するフラグメント化成長因子の設計」
いずれも「農林水産業・食品産業の可能性の拡大と成長の推進」という研究開発テーマに位置づけられ、発想段階にあたるフェーズ0として採択された。フェーズ0は最大2年間で、年額最大1,000万円の研究開発費が支給される(PDF p8)。
北里大学(池田大介氏)は、ニホンウナギ由来の筋芽細胞および脂肪細胞の大量培養技術を確立し、商業化に向けた基盤技術を開発する。撹拌型と固定化型バイオリアクターの併用により細胞の増殖と分化を最適化するとともに、代替血清培地の適応試験も実施する。
すでに同大学はウナギの筋肉組織由来の筋芽細胞・脂肪前駆細胞で不死化細胞株の樹立に成功しており、今回の取り組みは培養シーフードの実用化を後押しする可能性がある。
東京大学(竹内昌治氏)は、畜産で発生する未利用資源から有用成分を抽出し、安価な培養液としての実用化を目指す。コスト削減と細胞増殖能の向上を両立し、培養肉生産の基盤技術を構築する。

出典:東京大学竹内昌治研究室
岐阜大学(鎌足雄司氏)は、培養肉の培地コストの大部分を占める成長因子をフラグメント化し、安価な代替品として設計することで、培養肉のコスト削減と普及促進を図る。
今回の3課題はいずれも、細胞性食品の量産において最大の壁とされる「培地コスト」や「大量培養」の課題に正面から取り組むものであり、将来的な同等コスト達成に向けた研究テーマとなる。
また、精密発酵分野では、奈良先端科学技術大学院大学の高木博史氏による「酵母の育種技術を活用したサステナブルプロテインの創製」がフェーズ1で採択された。
高木氏は、酵母を用いた精密発酵による代替タンパク質生産に向けて、新たなゲノム編集技術の確立を目指している。また、食肉の機能性成分を高生産する酵母を育種し、酵母の菌体を用いた代替タンパク質の試作にも取り組んでおり、これも本プロジェクトに含まれる。
このほかにも、昆虫油を工業用油糧資源として活用する東北大学(加藤俊治氏)や、肉用鶏のオス化率を向上させる技術開発に取り組む静岡大学(笹浪知宏氏)など、アグリフード分野を中心とした多様な研究が採択されている。
今回のSBIR支援は、細胞農業や精密発酵といった次世代フードテックの社会実装に向け、国による本格的な後押しが始まったことを示すものといえる。
※本記事は、プレスリリースをもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。
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