このニュースのポイント
●Change Foodsがプレシードで約9100万円を調達
●同社は微生物発酵技術でアニマルフリーなチーズを作る代替タンパク質企業
●2023年までにBtoBで市場投入へ
●投資動向が示す微生物発酵市場の高まり
代替タンパク質のスタートアップChange Foodsがプレシードラウンドで87万5千ドル(約9100万円)の資金調達に成功した。今回のラウンドは申し込みが超過し、当初の目標60万ドルを大幅に上回る規模となった。
Change Foodsは今回調達した資金を、発酵技術のスケールアップ、中核チームの拡充、第1のチーズ試作品開発にあてるとしている。
Change Foodsは2019年にDavid Buccaが設立したスタートアップ。米国とオーストラリアを拠点とする。
同社が作るチーズは、動物を一切使わないのが特徴だ。
微生物を使うprecision fermentation(精密発酵、プレシジョン発酵とも訳せるが、本記事では精密発酵とする)という技法によって、動物はもちろんのこと、抗生物質やホルモン剤を使わずに本物そっくりのチーズを作り出している。
精密発酵を活用すると、微生物を「工場」として、実質的にあらゆる成分を量産できる。
つまり、あらゆる分子を生成するよう微生物をプログラム化し、望みのタンパク質を生成させる。発酵技術はもともとあったものだが、遺伝子組み替え技術によって、望みのタンパク質を自由に生成できるようになった。
歴史をさかのぼると、1978年に米ジェネンテック社は大腸菌に外来遺伝子を人工的に導入し、大腸菌からヒト型インスリンを生産させることに成功している。これが精密発酵の最初のブレイクスルーと言われている。
コスト・環境負荷・水使用の劇的な改善につながる発酵技術
Change Foodsによると、精密発酵技術を活用することで、牛から最終製品を作るよりも10倍効率が良くなる。使う飼料、土地、水も大幅に減らせる。
水の消費量を98%節減、二酸化炭素排出量は84%削減できるほか、牛から牛乳を生産するのに2、3年かかるのに比べて、わずか数週間で生産できる「時短」というメリットもある。
このように「アニマルフリー」で「時短」による生産を可能とする精密発酵は近年、注目を集めており、代替タンパク質分野において植物肉、培養肉に次ぐ「第3の波」と言われている。
独立系シンクタンクのRethinkXの報告書によると、2035年までに精密発酵は100万もの仕事を創出すると言われている。
実際に、下記グラフが示すように、発酵技術の投資動向は2019年に引き続き、2020年も急激な高まりを見せている。
精密発酵にかかるコストの急激な減少も、この技術の普及を後押ししている。
2000年に1㎏あたり100万ドルかかっていたコストは、現在では1kgあたり100ドルにまで下がっている。20年で1/10000になっている。
GFIも、発酵によるタンパク質の生産コストは、動物性タンパク質と同等あるいは低コストになるだろうと予測している。
コスト、時間、土地、環境への負荷のほかに、もう1つこれまでの乳製品にない利点がある。コールドチェーンのインフラ整備を必要としないことだ。これにより、効率よく遠隔地への移送が可能となる。
動物愛護、気候変動への負荷、水と土地の使用のいずれにおいても、従来の畜産にはないメリットを有する精密発酵について、Buccaは「節減効果は劇的だ」と言う。
2023年までの商用化が目標
Change Foodsは最初の商品として、動物を使わない本物そっくりなチーズを開発している。
現在取り組んでいるのはモッツアレラとチェダーチーズだ。今後は、調達した資金を活用して発酵技術のスケールアップ、中核チームの拡充、チーズ試作品の開発を予定している。
2023年までにBtoBで市販化を目指しており、長期的には、ほかの乳製品をターゲットにし、乳製品産業を破壊していく考えだ。
実のところ、生乳産業を完全に破壊するには、牛乳瓶のわずか3.3%に相当するタンパク質を置き換えるだけでよいと言われている。
Change Foodsのように精密発酵を活用する企業はほかにもある。
Perfect Day(パーフェクトデー)は微生物を利用して牛乳と同じ成分となるタンパク質を作っている。同社の微生物由来の乳タンパク質を使ったアイスクリームは100%ヴィーガンなアイスクリームとして有名だ。
米New CultureもChange Foodsと同じように牛を使わないチーズの開発に取り組んでいる。
Change Foodsは今年5月に12万5千ドルを調達しており、投資家の中には、Khailee Ng、Elisa Khong、Michal Klar、Simon Newsteadらがいる。
同社は2021年のシードラウンドで400万ドルの調達を目指している。
今回のプレシードラウンドには、Twitterアジア太平洋代表のMaya Hari、abillionvegCEOのVikas Gargなどが参加した。同社はGoogle関係者(非公開)からの支援についても明かしている。
参考記事
Rethinking Food and Agriculture 2020-2030
GFI:Fermentation: An Introduction to a Pillar of the Alternative Protein Industry
アイキャッチ画像の出典:Change Foods