細胞培養により培養サーモンを開発するWildtypeが、実証プラントの稼働をまもなく開始することを発表した。
この工場は数ヵ月以内に稼働をスタートする予定で、培養シーフードを最大20万ポンド(約90.7トン)生産できる規模となる。
工場内には、教育や試食ができるエリアも併設される。
培養サーモンの試食エリアを備えた実証プラント
Wildtypeは2016年に設立されたサンフランシスを拠点とするスタートアップ。
魚の細胞を培養して本物の魚肉を開発しており、現在は寿司にできるサーモンを開発している。
2、3ヵ月以内にオープンする実証プラントは、サンフランシスコに設置される。
この工場が開設すると、短期的な生産能力は5万ポンド(約22トン)となるが、最大で20万ポンド(約90.7トン)までスケールアップが可能だという。
この施設は、「未来の食」とも言われる培養タンパク質の未来を示すことをコンセプトとしている。
施設は主に、培養魚の生産エリアと教育エリアから構成される。
教育エリアには、培養サーモンを試食ができるカウンターと、席が用意されている。
この施設は、培養魚の大量生産を促進するとともに、一般の人々が新しいテクノロジーについて学べる場所となっている。
内部はガラス窓で仕切られており、培養サーモンを試食できるだけでなく、自分たちが食べている培養サーモンがどのように生産されているかを見ることができる。地元の学生が団体で見学に訪れることも想定している。
この施設には、培養魚の透明性を高めるほかに、もう1つ狙いがある。
サンフランシスコという商業都市の中心部に設置されることだ。
都心部への設置により、魚が消費される場所により近い場所で生産できることを示す狙いがある。
フード・マイレージ(食料の輸送距離)が短ければ、サプライチェーンにおける二酸化炭素排出量が少なく、環境への負荷削減につながる。
これは輸入に高く依存する国にとっては、有望な食料確保のソリューションとなることを意味する。
コストコ、ウォルマートなど小売全般での導入を目指す
Wildtypeは寿司にできる培養サーモンを、外食産業からリリースし、最終的には小売チェーンに広く提供したいと考えている。
Wildtypeはプレスリリースの中で、培養肉・培養シーフードを取り巻く状況について、概念実証を実施し、注目度をあげて資金を集める第1のフェーズは終わろうとしていると言及。
現在は第2のフェーズである、大量生産という課題に直面しているとしている。
「ローンチパートナーに、美味しくて、クリーンで、栄養のある寿司レベルのサーモンをまもなく提供できることにワクワクしています。
その後は、Wildtypeのサーモンを、コストコ、トレーダー・ジョーズ、ウォルマートなどの場所で消費者に広く提供できるようにします」
Wildtypeは昨年、サンフランシスコベイエリアのシェフから予約注文の受付を開始していた。予約注文を開始した時は、「大量生産まではあと数年かかる」とコメントしていたが、実証プラントの稼働開始によって、目標達成に向けてさらに研究開発を加速していくと予想される。
「Wildtypeの寿司が食料品店で販売されるようになったら、在庫切れ、配達の遅れ、品質の問題が発生することは許されません。
そのため、規模を拡大する前に、当社のパイロット生産プロセスについて十分なストレステストを実施しなければなりません」
培養サーモンの市販化まで秒読み?
Wildtypeのいう通り、培養肉・培養魚を取り巻く状況は変化している。
今年になってから、実証プラントの建設を発表した企業は、Wildtypeを含め、MeaTech(イスラエル/培養肉)、Avant Meats(香港/培養魚)、Misson Barns(アメリカ/培養脂肪)、BlueNalu(アメリカ/培養魚)、UPSIDE Foods(アメリカ(旧メンフィス・ミーツ)/培養肉)と6社。
イスラエルのFuture Meatにいたっては、世界に先駆けて培養肉生産施設をイスラエルにオープンしたことを先日発表した。
今年前半には培養肉・魚企業への投資が集中し、18社以上が出資を受けた。
この中には、イート・ジャストの約219億円、同社培養肉部門GOOD Meatの約184億円、Meatableの約50億円など多額なものも含まれる。
これまでに、培養肉を実際に販売した企業はアメリカのイート・ジャストのみだが、シンガポールの事例に続こうと、Future Meat、BlueNalu、Finless Foodsなど、アメリカでの許認可取得に向けて取り組みを進めている企業もいる。
代替シーフードに焦点をあてると、Finless Foodsは細胞培養による代替魚に加え、植物ベースの代替魚にも参入。クロマグロ、ブリなどを開発するBlueNaluは年内にアメリカでテスト販売するとしている。
植物ベースでは、マグロを開発するKuleana、マグロ・うなぎを開発するOcean Hugger Foodsなどが登場している。
代替シーフードへの参入企業が増える中、Wildtypeにとって直接的な競合となりそうな企業は存在しない。
代替魚を開発する他社には、マグロに注力する企業が多く、Wildtypeの培養サーモンは「世界初の細胞ベースのサーモン」と呼ばれている。
代替サーモンのプレーヤーとしてはRevo Foodsもいるが、同社の製品は3Dプリンターによる植物サーモンとなる。
今回のプレスリリースで具体的なタイムラインは言及されていないが、記事の最後は次のように締めくくられており、Wildtypeの培養サーモンが市販化されるのは時間の問題となりそうだ。
「まもなく、当社の製品をみなさんにご紹介できることをとても楽しみにしています」
参考記事
Welcome to the world’s first cultivated seafood pilot plant
Wildtype’s New Facility Can Make 200,000 Pounds Of Cell-Based Salmon Per Year
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アイキャッチ画像の出典:Wildtype