微生物、空気、電気を使ってタンパク質を開発するソーラーフーズ(Solar Foods)がフィンランド気候基金(The Finnish Climate Fund)から1000万ユーロ(約13億円)の出資を受けた。
調達した資金で、実証プラントを建設し、同社タンパク質Solein(ソレイン)の商用生産を図る。
ソーラーフーズのこれまでの調達総額は3500万ユーロ(約45億円)となる。
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畜産、植物原料よりもサステイナブルな代替タンパク質
ソーラーフーズはフィンランドを拠点とするスタートアップ。
同社の微生物由来のタンパク質Soleinは、微生物に餌として空気と電気を与えて発酵させて増殖させたものをタンパク質粉末としている。
このような微生物由来のタンパク質は、代替タンパク質の1分野として近年注目を浴びている。
Soleinの最新の公式資料によると、1㎏のタンパク質を作るのに必要な水は、畜産牛肉の700分の1、植物性タンパク質の100分の1と少ない。
土地利用も同様で、1㎏のタンパク質を作るのに必要な土地は畜産牛肉が200㎡、植物性タンパク質が20㎡であるのに対し、Soleinは1㎡で済む。
生産プロセスで排出される温室効果ガスは畜産牛肉の200分の1、植物性タンパク質の5分の1となる。
このような微生物発酵によるタンパク質は、生産に広大な土地、大量の水を必要とせず、排出される温室効果ガスが少ないほか、天候の影響も受けない。代替タンパク質の第3の柱として注目されている。
微生物、空気、電気を活用した代替タンパク質Solein
ソーラーフーズが公式サイトでうたう「空気から作られるタンパク質」のフレーズからは、まるで魔法のように空気だけでタンパク質ができるように思えてしまうが、そうではない。
シンプルにいうと主役は水素細菌(微生物の1つ)で、水素細菌を増やすのに「電気分解」というプロセスを活用している。
かみ砕くと次のようになる。
水の電気分解によってまず水素と酸素が生成される。次にバイオリアクターに微生物の餌となる二酸化炭素を供給する。
微生物は水素、酸素、二酸化炭素を栄養分として消費し、増殖する。
微生物の体の中では、取り込んだ二酸化炭素が炭素化合物として貯蔵される。
この貯蔵される炭素化合物(タンパク質)を乾燥させて粉末にしたものがSoleinとなる。
ソーラーフーズが使用する微生物のように、二酸化炭素を栄養源に生育する微生物を水素細菌(水素酸化細菌)という。
また、微生物が二酸化炭素を取り込んで炭素化合物として貯めるプロセスを炭素固定という。このおかげで、大気中に排出される二酸化炭素を食品や飼料に変換することができる。
つまり、ソーラーフーズの「空気と電気から作られるタンパク質Solein」は、電気分解と水素細菌による炭素固定を利用したタンパク質となる。
このような水素細菌を活用して有機物を生産する試みは新しいものではない。
しかし、水の電気分解から水素を生成し、空気中から二酸化炭素を回収するのは非効率で費用のかかるプロセスであるため、食品の製造において実現するには難しさがあった。
ソーラーフーズの研究者の論文によると、現在では、風力発電や太陽光発電の生産能力向上、生産コスト削減などによって、以前では難しかった技術が経済的に実現可能なものになっているという。
微生物発酵における精密発酵とバイオマス発酵の違い
微生物発酵は大きく精密発酵とバイオマス発酵に分類されるが、ソーラーフーズは後者に分類される。
精密発酵の代表格はパーフェクトデイで、微生物はあくまで「生産工場」としての役割を果たし、必要なタンパク質を分泌した後は最終産物から除去される。
これに対し、ソーラーフーズのようなバイオマス発酵は、微生物を培養、生育させたものを粉末にしてタンパク質にしている。
Soleinはタンパク質を65~75%以上含有し、さまざまな食品に活用できる。粉末はβカロテノイド由来の黄色で、ソーラーフーズはこれまでにSoleinを使って20種類以上の食品を製造している。
2023年に実証プラントの稼働をスタート
ソーラーフーズは今回調達した資金で、実証プラントを建設する。
プレスリリースによると、現在建設中のこの生産施設は、2023年初頭に稼働を開始するという。
ソーラーフーズはフィンランド技術研究センター(VTT)とラッペーンランタ大学のスピンオフとして、2017年にPasi Vainikka氏、Juha-Pekka Pitkänen氏、Sami Holmström氏、Jari Tuovinen氏、Jero Ahola氏、JanneMäkelä氏によって設立された。
今回の資金調達について、CEOのVainikka氏は次のように述べている。
「Sopeinタンパク質を消費者のみなさんの食卓にまもなくお届けできることを嬉しく思います。
当社の最初の生産施設はフィンランドにあり、二酸化炭素と電気を原料として食品を生産する世界初の商用施設となります。
私たちは、食料を生産するために、天然資源をさらに消費することをやめたいと考えています。これに関われることは魅力的なことです。
生産施設について詳細な計画はすでにありますが、年末近くに詳細を発表します」(Pasi Vainikka氏)
参考記事
Can start-ups succeed in making food from the air?
Solar Foods Receives €10M to Scale Production of its Protein Made Out of Air
微生物に学ぶ炭素固定系(近畿大学産業理工学部かやのもり 16(2012))
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アイキャッチ画像の出典:Solar Foods