イスラエルの精密発酵企業Imagindairyが、精密発酵による乳タンパク質についてアメリカ食品医薬品局(FDA)から「異議なし」のレター(No questions letter)を受け取ったことを発表した。
Imagindairyが精密発酵乳タンパク質に対しGRAS認証を取得
同社は昨年8月、FDAの要求事項に準拠してGRAS自己認証を取得し、アメリカで精密発酵タンパク質の販売ができるようになった。
GRASとは、Generally Recognized As Safe(一般に安全とみなされている)の略語で、米国における食品安全に関する独自の認証制度。
アメリカでは、メーカーは精密発酵による原料についてGRAS自己認証を宣言することで、当該原料を販売できるようになる。GRAS自己認証ステータスでは、FDAへの通知は任意となるが、GRAS自己認証を宣言していても、要件を満たしていないことが判明した場合、法律違反によりFDAによる執行の対象となる。
FDAによる「異議なし」のレターは、Imagindairyのアニマルフリーな乳タンパク質がGRAS基準の下、食品に安全に使用できるという専門家パネルによる結論をFDAが受け入れたことを示している。つまり、同社タンパク質の安全性が、FDAから「お墨付き」をもらったことになる。
乳タンパク質において「異議なし」のレターを受領した企業では、パーフェクトデイ、Remilkに続き、Imagindairyが3社目となる。
近く、GRAS InventoryにImagindairyに対するFDAのレターが掲載されると思われる(現在は回答待ちの状態となっている)。
麹菌でβ-ラクトグロブリンを開発
GRAS Inventoryの公開情報によると、Imagindairyは麹菌であるAspergillus oryzaeを使用してホエイタンパク質の1つであるβ-ラクトグロブリンを生成している。
(参考にRemilkはKomagataella phaffii、パーフェクトデイはTrichoderma reeseiを使用してβ-ラクトグロブリンを生成している)。
麹菌由来のβ-ラクトグロブリンは、代替食品、代替サプリメント、粉末栄養ドリンク、スポーツドリンク、高タンパク質栄養ドリンク、栄養バーに5-35%のタンパク質源として使用することを目的としている。
具体的な用途としてミルク、乳製品ドリンク、ヨーグルト、発酵乳製品、クリーム、チーズ、スプレッド、ディップ、乳製品ベースの冷菓・ミックス、デザート・ムース、菓子、コーティング・フィリング、焼き菓子、サラダドレッシング、主菜用ソース、代替卵が想定されている。
ダノンから出資を受けるImagindairy
ジェネンテックが微生物によるヒトインスリン開発に成功し、1982年のFDA認可を経て1983年に市販されて以来、微生物を「作り手」とする精密発酵はさまざまな酵素の製造に使用されてきた。近年では乳タンパク質など、食品中の特定成分を製造する持続可能な技術として注目されている。
精密発酵により屋内施設での生産が可能となり、生産プロセスでは動物に依存しないことから、年間を通じて安定した供給量が見込め、環境負荷の軽減が期待できる。
家畜から産生される温室効果ガスは総排出量の14.5%を占めると言われるが、乳製品の生産で発生する温室効果ガスは、家畜由来排出量の約30%に相当するとされる。そのため、地球規模の課題を解決するソリューションとしてこの分野に参入する企業が増加している。
2020年に設立されたImagindairyもそのうちの1社だ。
精密発酵タンパク質の普及には、消費者にとって手頃な価格で提供することが不可欠だ。現状、市場に流通する製品には限りがあるが、Imagindairyの精密発酵プラットフォームは、タンパク質の発現を大幅に増幅し、乳タンパク質の費用対効果の高い生産を可能にするという。
同社は昨年ダノンから出資を受けているため、今後ダノン傘下の植物性ミルクのAlpro、Silk、スポーツ向け製品YoPROなど何らかのブランドにImagindairyの乳タンパク質が使用される可能性は高いだろう。
ダノンは粉ミルクのプラントベース化も一部で進めているため、粉ミルク製品への使用も展開するかもしれない。また、Imagindairyが長期的に欧州進出を目指すと思われる動きも確認されており、上市の動向に注目だ。
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アイキャッチ画像の出典:Imagindairy