2022年に設立されたイスラエルのスタートアップ企業DairyXは今月、精密発酵技術を用いて、ミセルに自己組織化するカゼインの生産方法を開発したと発表した。
カゼイン開発に取り組む精密発酵企業は増えており、New Culture、Fooditive、Muu、Eden Brewといった企業が挙げられる。特にNew Cultureは、今年2月にGRAS自己認証を取得したが、まだ販売には至っていない。
カゼインはαS1、αS2、β、κの4種類から構成され、牛乳中ではカゼインミセルと呼ばれる球状の構造を形成している。カゼインミセルの形成では、κ-カゼインが他のカゼインと相互作用し、カルシウム存在下でも沈殿しないようにすることで安定化に寄与している。
球状ミセルを形成するカゼインタンパク質の複雑な構造により、精密発酵でのカゼイン生成は困難とされている。この複雑さやコストの高さから、スタートアップ企業の中には、ミセル化を避け、非ミセルのカゼインで乳製品加工に取り組む企業もある。
一方、DairyXは精密発酵でカゼインの製造に成功した後、ゲル化ミセルに自己組織化するカゼインへと改良する課題に取り組んできたと、創業者兼CEO(最高経営責任者)であるArik Ryvkin氏は述べている。
DairyXは遺伝子組換え酵母を使用してカゼインミセルを開発しているが、最終的に酵母が取り除かれるため、カゼインそのものは遺伝子組換え成分にはならない。
製品開発・下流プロセス部門長のMaya Bar-Zeev博士によれば、精密発酵によるカゼインがすべて同じわけではないという。同氏は、「私たちは酵母を訓練し、次世代のカゼインを生成しました。当社の特許出願中のカゼインは、正確かつ効果的にミセルに自己組織化されるように生成された高度な形態です」と述べている。
研究開発の核心:翻訳後修飾
タンパク質は合成された時点では機能を発揮せず、本来の機能を発揮するためには「翻訳後修飾」という追加のプロセスを経る必要がある。翻訳後修飾にはリン酸化、糖鎖修飾などがあり、カゼインミセルでは、リン酸化、糖鎖修飾が機能的にも構造的にも重要な役割を果たしていると言われる。
(翻訳後修飾についてはこちらの解説記事を読んでみてほしい。Foovo佐藤が数年前に書いた記事)
Green queenの報道によると、DairyXの酵母株はウシ由来のアミノ酸配列と一致するだけでなく、この翻訳後修飾を可能にするカゼインを生成するよう設計されているという。
この点こそが、DairyXの研究開発の核心であるとRyvkin氏はAgFunderに語っている。
さらに、同社はカゼインミセルのゲル化を強化する補完技術も改良した。同社のゲル化ミセルにより、メーカーは従来の製造プロセスを使用して、硬くて伸縮性があり、クリーミーな製品を製造できるとしている。
精密発酵カゼインの市場投入では味と価格が重要な要素となる。DairyXはこれらの要素に対応しており、「短期間で非常に高いカゼイン収率を可能にする酵母株」を開発している。これにより、乳業メーカーによる採用において重要となる費用対効果をクリアすることが期待されている。
また、DairyXのカゼインは代替品としてそのまま使用できるため、乳業メーカーがプロセスの変更や再調整など、生産設備を新原料に適合させる必要はないという。
Ryvkin氏は、「酵母からカゼインミセルを再現することは重要なマイルストーンです」とコメント。現在は、発酵プロセスのスケールアップと乳業メーカーとの協業に注力していると述べている。
Green queenの報道によると、DairyXは自社カゼインを使用した最初の製品を2027年にアメリカで発売することを計画している。
参考記事
DairyX Is Paving the Way to Making Stretchy, Protein-rich, Dairy Cheese – Cow-free
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アイキャッチ画像の出典:DairyX