セミナー

東大竹内研、脂肪を含む5.5cm×4cm×1.5cmの培養肉作製に成功|さらに中空糸使用のトップダウン戦略でスケールアップに挑戦【セミナーレポ】

 

培養ステーキ肉を開発する東京大学竹内昌治研究室は今年8月、5.5cm×4cm×1.5cmの培養肉の作製に成功したと発表した。

今月10日、都内で開催された国際細胞農業カンファレンス(第13回培養食料研究会)で、東京大学・大学院情報理工学系研究科・特任助教の島亜衣氏が培養肉研究の最近の成果と取り組みを発表した。

本記事では島氏の発表の内容を紹介する。

ボトムアップ製法で5.5cm×4cm×1.5cmの培養肉を作製

出典:Formation of contractile 3D bovine muscle tissue for construction of millimetre-thick cultured steak

厚みのある培養ステーキ肉の作成には、組織全体に筋繊維が並び、生体内で見られるような骨格筋の組織構造を再現する必要がある。しかし、厚い組織を作ろうとすると、組織の中心部が壊死に陥りやすい。そのため、細胞が壊死しないように、酸素と栄養を供給する必要がある。

竹内研究室では培養ステーキ肉の開発に向けて、2つの戦略を採用している。ボトムアップ式のマイクロモジュール積層法とトップダウン式の中空糸バイオリアクターを用いた灌流培養法だ。

マイクロモジュール積層法では、ミルフィーユのようにボトムアップ式に2種類のシート状モジュールを積み重ねていく。モジュールは、ウシ筋芽細胞とコラーゲンを型に流し込んで形成されたシート状で、スリットが設けられ、酸素透過性を高める工夫がされている。アンカー(固定する部分)にモジュールを積み重ねて両端を固定させて培養させると、組織内に筋繊維を一方向に形成させることができる仕組みだ。

40枚重ねて1週間培養した結果、8mm×10mm×7mmの培養肉を作製できた。この成果は2021年に発表され、培養ステーキ肉開発の第一歩となった。

出典:東京大学竹内昌治研究室

今年作成したバージョンはさらにサイズアップした5.5cm×4cm×1.5cmとなり、筋芽細胞だけでなく、ウシの脂肪組織も含まれている

竹内教授はこの成果について、「私たちの培養脂肪入り牛肉がついに完成しました。5.5cm×4cm×1.5cmの構造化された肉です。私たちはここで歩みを止めるつもりはありません。これからも前進を続け、さらに多くのことを実現していきます」とリンクトインで述べた

中空糸を用いたトップダウン式の培養肉開発

出典:Centimeter-scale perfusable cultured meat with densely packed, highly aligned muscle fibers via hollow fiber bioreactor

モジュールを積み上げる方法により、厚みのある培養肉を作製できたものの、40枚のモジュールを1枚ずつ積層させるには、専門的な技術が必要になる。

そこで次のアプローチとして、トップダウン戦略を考案した。動物の体内と同様に、人工血管を作って灌流培養を行うことで、最初から大きな組織が作ろうというアプローチだ。本研究は査読前の論文が公開されるプレプリントサーバーBioRχiv(バイオアーカイブ)に昨年公開された

竹内研究室は、中空糸を使い、人工血管を持つ灌流培養デバイスを開発した。中空糸とは、マカロニやストローのように中心部が空洞の糸をいう。最初から血管に相当する通り道が複数ある状態で、組織を作っていく試みだ。

出典:Centimeter-scale perfusable cultured meat with densely packed, highly aligned muscle fibers via hollow fiber bioreactor

中空糸バイオリアクターhollow fiber bioreactorHFB)と呼ぶこのデバイスは、両端には3Dプリンター製の微細な穴のある固定部があり、両端をつなぐように中空糸ファイバーが配置されている。中空糸が血管のように栄養素や酸素を送達する役割を果たす。中空糸の一端は培養液に、もう一端は吸引ポンプに接続されている。

中空糸バイオリアクターと呼んでいるが、増殖のために細胞を培養するわけではない。最初から細胞とハイドロゲルを用いて組織を作り、デバイス内で組織を成熟させる狙いがある。

出典:Centimeter-scale perfusable cultured meat with densely packed, highly aligned muscle fibers via hollow fiber bioreactor

竹内研究室は50本の中空糸を使用し、鶏の初代筋芽細胞を培養した。9日間の灌流培養後、2cm × 1cm × 5mmの小さな組織片を得た(上記写真)。

中空糸を取り除き、灌流あり灌流なしの条件で培養した組織を分析した。灌流なしでは、周辺部のみで筋管が形成され、中心部は壊死していたが、灌流ありでは中心部にも筋管形成が認められた。

食感、アミノ酸分析の比較では、灌流ありは対照群よりも、硬さがあり、2倍のアミノ酸を含んでいたという。さらに、灌流なしでは電気刺激で全く収縮しなかったが、灌流ありでは筋収縮が認められたと島氏は説明した。

中空糸バイオリアクターは、培養ステーキ肉の開発に有望である結果が得られたが、センチメートルサイズの組織を作るには1,000本以上の中空糸を配置しなければならないという課題がある。

竹内研究室は現在、スケールアップに向けてXYZステージを使用し、中空糸を半自動的に配置するシステムの開発に取り組んでいる。

より太い筋管組織の形成に向けて

出典:Dynamic and Static Workout of In Vitro Skeletal Muscle Tissue through a Weight Training Device

島氏は、より太い筋管組織を作る試みための「ウェイトトレーニングデバイス」についても紹介した。筋細胞を肥大させることで、培養ステーキ肉の食感や味の改善につながる可能性があると見ている。

この装置は、電気刺激を与えると筋肉が収縮し、重りを持ち上げる仕組みとなる。この「筋トレ」により、筋管の直径が30%増加することが確認されたという。

ウシの筋管ではまだ試していないが、このシステムによって培養組織の筋管が太くなり、培養ステーキ肉の食感や味が向上する可能性がある。本研究に関する論文は、今年8月30日に論文が発表された

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:東京大学竹内昌治研究室

 

関連記事

  1. TiNDLE Foodsが米スーパーで代替鶏肉製品を発売、来年に…
  2. 【12/8】Foovoイベント開催のお知らせ|代替タンパク質スタ…
  3. 微生物を活用してアニマルフリーなチーズを開発するFormo、年内…
  4. マメ科植物の種子から植物性ホイップクリームを開発するANDFOO…
  5. Remilk、イスラエルで精密発酵タンパク質の認可取得が間近
  6. 廃棄カリフラワー由来の植物アイスクリーム|EatKindaがニュ…
  7. 捨てるはずのコーヒーかすでキノコ栽培|ヘルシンキノコが提案する気…
  8. 米Helaina、約65億円の調達で精密発酵ヒトラクトフェリンの…

おすすめ記事

Ants Innovate、ハイブリッド培養豚脂肪「Cell Essence」の試食会を開催

シンガポールの培養肉企業Ants Innovateは14日、シンガポール企業Es…

Forsea Foods、培養うなぎの開発で細胞密度3億個/mL超を達成

今年は培養うなぎで大きな進展が相次いだ1年になった。8月、北里大学の池田…

ソーラーフーズ、シンガポールでソレインの販売認可を取得

二酸化炭素と微生物を活用して代替タンパク質ソレインを開発するソーラーフーズ(So…

イスラエル企業Ansāが開発した電波を利用したコーヒー焙煎機e23

イスラエルのスタートアップ企業Ansāが開発したコーヒー焙煎機e23によって、職…

ドイツのPlanet A Foodsが代替チョコレートをスーパーに初導入

持続可能な代替チョコレートを開発するドイツ企業Planet A Foods(旧称…

スペインNovameatが3Dプリンター製培養肉の試作品を発表

このニュースのポイントスペインNovameatが…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

最新記事

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,707円(04/24 15:02時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(04/24 00:50時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(04/24 04:47時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(04/24 21:03時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(04/24 13:06時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(04/24 00:05時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP