培養肉のルール形成に取り組む細胞農業研究機構(JACA)は先月21日、培養肉など細胞性食品の対応を明確にするための提言を消費者庁・農林水産省に提出、報道機関に向けた説明会を開催した。
日本国内では培養肉の販売や消費に関する具体的な法的手続きが整備されておらず、企業は法的な不透明さから市場投入を進めにくい現状がある。
JACA代表理事の吉富 愛望 アビガイル氏は、培養肉のルール形成を進めるため、上市前の個別相談窓口の設置、上市に関わる法的解釈・手続きの明示化の2点を提言した。
培養肉市場の開放に向けた課題と提言
現状、日本では細胞性食品の販売手続きに関する規制が存在しないが、同時に販売を禁止する規制もない。企業が販売することも理論的には可能な状況だが、企業は暗黙の了解として、培養肉の販売を自粛している。この状況を打破しない限り、日本国内での市場投入は見込めず、技術革新も進みにくい。
一方、行政側にとっては実例がない状態で、研究開発途中の製品についてルール形成するのは難しい。こうした背景が、企業・行政の両すくみの状態を生んでいると吉富氏は指摘する。
吉富氏は、細胞農業が将来的に安全保障などに関連する重要な技術になる可能性を指摘し、その可能性を見極める判断材料を得るためにも、国内における技術の実装化によって確かな情報源を確保することが大事だと強調した。培養肉をめぐる海外の公開情報は多いものの、日本の実態に即さない可能性もあり、吉富氏は、日本の技術素地に基づく検証が必要だと考える。
しかし、民間主体の情報整理では企業秘密によって重要な情報が入手しづらい現状がある。そこで、企業の情報が関係省庁側に直接集約され、これに基づいて手続きの明確化が進むよう、「上市前の個別相談窓口の設置」を提言し、2025年度中の対応を求めた。
また、培養肉の安全性に関する研究が進まない背景として、国内で培養肉そのものが入手困難であるという問題も指摘された。研究者が製品を手に取って安全性の検証を行う機会が限られているため、安全性や社会実装に関する議論を遅らせているという。
さらに、培養肉に限らず、新しい食品技術が次々と生まれる中で、その安全性を評価する専門家の不足は社会実装に向けた議論を遅らせる要因となる。このため、企業が持つ情報を直接集約し、適切なルール形成につなげるための窓口の設置が必要だと吉富氏は考えている。
JACAは2点目として、「上市に関わる法的解釈や手続きの明確化」を提言。
現在の状態では、海外から輸出要請が来てからでは間に合わない可能性もある。また国内では現在、ゲノム編集、遺伝子組換えなどカテゴリ別にルールが形成されているが、培養肉以外の新規食品が生まれる中、新規技術に対しても同じ状況が続くことを吉富氏は懸念している。
こうした背景から、企業が実用化に踏み切れる体制を整えるために、製造から輸送、流通に至るまでの販売手続きの明確化を提言した。
情報集約の窓口設置でルール形成を加速
吉富氏は、ルール形成が遅れている背景に、行政のリソース不足もあると指摘。現在、細胞農業に関わる担当者は限られた人員で対応しており、他の新技術と並行して対応する中で、培養肉に十分なリソースを割けていない状況だという。行政と企業の間での情報共有が進まないことで、適切なルール形成が遅れている状況もある。
JACAは、リソース不足に対応するためにも、官民連携による情報整理を進め、円滑なルール形成を目指すべきだと考えている。そのためにも、窓口設置による直接の情報収集が急務だと考えている。
説明会では、海外の参考事例として、シンガポールの事例が紹介された。シンガポールでは経産省と消費者庁に相当する団体が共同でシンクタンク「FRESH」を立ち上げ、培養肉の開発初期段階から安全性を考慮した製品設計を行っている。これにより、企業と行政の間で双方向のフィードバックが行われ、規制の迅速な策定に寄与している。
JACAは、日本でもこのような産学官連携の枠組みを取り入れるべきだと考えている。
提言に関するJACAプレスリリース
細胞性食品の研究団体、日本の「培養肉」への対応明確化に向け提言を作成 官民連携を呼びかけ(提言全文のURLは上記プレスリリース内にある)
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アイキャッチ画像の出典:JACA