韓国政府は、培養肉など細胞性食品の開発を目的とした特区を創設した。この特区の正式名称は「慶北細胞培養食品規制免除特区(RSFZ)」で、10社の培養肉企業が参加する予定となる。
特区とは、ビジネスをしやすい環境作りを目的に、地域や分野を限定することで規制や制度の緩和などを行う制度を言う。日本国内でも「国家戦略特区」が制定されているが、培養肉の特区は国内ではまだ設置されていない。
培養肉事業推進における規制を一部免除
韓国では今年2月、食品医薬品安全処(MFDS)が「食品等の暫定基準及び規格認定基準」を改正・告示し、細胞培養由来原料を食品として認めるための手続きが明確化された。
しかし、培養肉の商用化には、大量生産における経済性・安全性の確保、味・風味・食感において従来の動物肉との差を減らすことが課題となる。
地元メディアの報道によると、慶尚北道政府はこうした課題をふまえ、高品質な培養肉商用化の鍵は、新鮮な細胞供給にあると判断。参加企業は、生検と当日屠殺した動物組織を活用できる特例が認められ、これにより高品質な培養肉を大量生産するための実証をRSFZは計画している。
韓国はRSFZ創設により、「培養肉という新市場を開拓」し、「培養肉の世界基準確立による国際標準の先取り、雇用創出、競争力強化」を目指している。
慶尚北道政府はRSFZ創設の背景として、「細胞培養で技術的に得られた細胞培養物の食品原料認定のための基本的な法的根拠が設けられているが、依然として関連法規制が細胞培養食品開発関連の事業推進において最大の懸念であり、特区指定を通じて地域内の細胞培養産業エコシステムを先制的に造成する」ことに言及している。
細胞バンクの構築、量産・商用化の実証
地元メディアの報道によると、RSFZは、細胞バンクの構築、量産・商用化の実証など主に2つのプロジェクトを計画している。
細胞バンクの構築では、農家と連携して生きた動物と当日屠殺した動物の肉組織から高純度細胞を抽出し、様々な細胞を細胞バンクに保管・管理して製造品質管理基準を策定する。量産・商用化の実証では、培養肉の量産に必要な3Dプリンティングおよび培養肉の味・食感のための食品添加物など、商品性のある細胞培養食品の開発と実証を行う。
RSFZには2024年6月から2028年12月までの4年間7ヵ月、総額199億ウォン(約22億円)の予算が投じられる。
Lartbio、DaNAgreen、Seawithなどの韓国企業が参加し、細胞性食品の商用化に向けた実証を行う。
韓国にはCellmeat、Space F、Simple Planetなどの培養肉企業が登場している。韓国政府は2022年8月、国家計画に培養肉のガイドラインを盛り込むことを発表した。
今年2月の申請プロセスの明確化に続き、培養肉特区が設置されたことで、培養肉を含む細胞性食品において韓国が国際的な存在感を一層高めることは間違いない。
韓国での特区設置の動きについて、細胞農業研究機構(JACA)代表理事・吉富愛望アビガイル氏は、「特区構想は、日本ではもともと推進する動きもありましたが、食品安全に関する『規制緩和』という見方がなされてしまい、実際には通常販売と比較して厳しいルールが課される場合があったとしても、消費者からの理解を得ることが難しいのではとの理由でなかなか進みませんでした」と、国内でも議論が行われていたことに言及。
さらに、「弊機構も同様の背景で現在は国内での一般販売のためのルール形成に軸足を置いているため、韓国の本件についての消費者からの反応は非常に気になるところです」とFoovoに述べた。JACAは2026年を目標に、国内で培養肉の販売実現に向けて政策提言を行っている。
参考記事
South Korea Designates Regulation-Free Zone for Cultivated Meat to Boost Production & Safety
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アイキャッチ画像の出典:慶尚北道政府ライブ動画