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熟成で味を強化、培養条件で“味”をデザイン──東大、「狙った味」を持つ培養肉開発に前進

 

培養ステーキ肉の開発を行う東京大学竹内昌治研究室は、培養肉の味を構成する鍵となる「遊離アミノ酸(FAAs)」が細胞の分化および熟成という工程を通じて変化すること、特に熟成により培養肉中の「遊離アミノ酸」が大幅に増えることを明らかにした。

研究成果は、2025年5月16日付でFood Chemistry誌に「The effects of differentiation and aging on free amino acid profiles in cultured bovine muscle tissue」というタイトルで、速報として掲載された

「遊離アミノ酸」はタンパク質に結合していない自由な状態のアミノ酸で、肉の旨味・甘み・苦味などの味に直接影響を及ぼす。プレスリリースによると、「遊離アミノ酸」は肉の味に深く関与するが、これまでに培養肉の「遊離アミノ酸」に関する知見はほとんどなく、培養肉と本物の肉との味の違いや、制御方法は明らかになっていなかった。

研究チームは微量測定により、分化細胞が特定の機能を持つ形へと発達すること)で一度減少した遊離アミノ酸が、熟成低温下で一定期間保存することでタンパク質が分解され、遊離アミノ酸が生成・蓄積される工程)により回復し、市販牛肉を上回る濃度に達することを確認。さらに培地中の「遊離アミノ酸」濃度を調整することで細胞内の「遊離アミノ酸」が変化することを確認し、「培養条件で味をコントロールする可能性が示された。

竹内昌治教授は、「培養肉の味は何によって決まるのか?様々な要因が予想されてきましたが、本研究は少なくとも培養条件が味成分に大きく影響する可能性を示した点で、重要な一歩となりました」と述べている。

熟成とカスタム培地が示す培養肉の風味改良の可能性

出典:東京大学

研究では、ウシ筋芽細胞を分化後に4〜14日間低温熟成すると、細胞内の「遊離アミノ酸」総量が大きく増加した。市販の牛肉(乾燥重量換算)と比較したところ、培養細胞の「遊離アミノ酸」濃度は、非熟成状態でも市販の牛肉の2倍以上に達した。

熟成プロセスでは、苦味系・甘味系アミノ酸の顕著な増加が観察された。

出典:東京大学

また、0.1倍~5倍の濃度に変化させたカスタム培地で培養したところ、カスタム培地で増強したアミノ酸に対応する「遊離アミノ酸」の増加が認められた。特に、5倍濃度のカスタム培地で培養した場合、対象のアミノ酸濃度の増加が顕著となり、なかでも「苦味」強化培地で最も顕著な結果が得られ、培地中のアミノ酸濃度を調整することで、細胞内の「遊離アミノ酸」組成を人工的に操作できる可能性が示された。

出典:東京大学

つまり、培養条件をレシピのように操作すれば、甘味優位、うま味優位など狙った味覚プロファイルを設計できる可能性があり、「狙った味」を持つ培養肉開発の道が開かれる可能性がある。

培養肉の生成プロセスは、大きく「細胞の増殖」と「細胞の分化」から構成される。本研究における「熟成」は、これらの工程の後に実施される工程であり、低温下で保存することでタンパク質が分解され、味の決め手となる遊離アミノ酸の含有量が増加することが示された。熟成には冷蔵設備が必要となるものの、生産プロセスの後工程として取り入れられる可能性があり、培養肉の風味改良を目指すうえで有効なアプローチとなり得る

大量生産技術の議論が主だった培養肉研究は、いよいよ“風味制御技術”という次のステージに踏み出した。

 

※本記事は、プレスリリースをもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。内容については、論文発表者の竹内昌治教授、古橋麻衣様にも確認をいただきました。

 

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アイキャッチ画像の出典:東京大学

 

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